11 衝動


「うーん」

目の前に複数のカードが並んでいる。持ち手の少女、翔子は嬉しそうに真剣にカードを選ぶ一騎を見つめていた。

「いいから早く引けよ」

ため息や苛立ちを含んで、甲洋が呟く。そしてそんなやり取りを横目に見る真矢。

翔子が貧血で倒れ、アルヴィスに泊まることになったのをいい事に、4人は翔子の病室に集まっていた。

4人の思考や想いが複雑に交差する中で、何か話題は無いかと真矢は思考を巡らす。そして思い付いたと同時に声を上げた。

「あ!そう言えば!」

突然立ち上がった真矢に、3人の視線が集まる。

少し大袈裟にやり過ぎたと、真矢は心の中で後悔してから苦笑いを浮かべて椅子に座った。

「ナマエの様子はどお?一騎くん」

彼女が眠りについてから、詳しい事は真矢達パイロット候補生にはなにも教えてもらえていなかった。

甲洋と翔子も気になっていた様で、真矢に向けられていた視線は一騎へと移る。

「さあ、な」
「さあ、って・・」

余り興味の無さそうに言う一騎に思わず真矢は表情を顰めた。

「ナマエには総士が付いてる。だから平気だろ」
「そう、なんだ」

投げやりな一騎の言葉に、真矢は視線を落とした。

機嫌を悪くしてしまったという事もあるが、何より一騎が意固地になっている様な気がしてならなかった。

それが何故なのか知る由もないが、さっきの言葉を聞く限り総士と関係しているのだと推測するのに時間は掛からなかった。

そして何より真矢の脳裏には同化されたナマエを迷いなく助けた一騎の姿が映っていた。

ナマエを抱き留めた彼の顔が余りにも優しくて、あんな危険な状態になっていたナマエを羨ましいとさえ思ってしまった。

そんな自分が嫌なはずなのに、それでも思わずにはいられない。自分がナマエだったなら、一騎にこんな顔をさせないのに。

心細そうな、孤独感を漂わせる彼を真矢は抱きしめたい衝動に駆られた。

「一騎く、」
「そう、なんだね!じゃあ続きしよ!」

翔子の言葉に、伸ばしかけた腕が止まった。

早く早く、と再び翔子が一騎の前にカードを差し出す。それを一騎はああ、と一言だけ言って笑った。

真矢は出し掛けた手を膝の上で見つめた。

私、今なにをーー

自分の気持ちに気付いていない訳ではない。
だけど、翔子の前で私は何をしようとしていたんだろう。

考えたら少し怖くなり、でもやっぱり残念な気持ちもあった。その笑顔が、一瞬でも自分に向けられていたら、と思わずにはいられなかった。










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