10 世界


「なあ、総士」

白を基調とした部屋。ただそこに眠るのは自分の妹、と言うだけでやたらと殺伐とした、寂しい部屋だと一騎は思った。

「なんだ」

会話をしているのに、お互い相手を見ていない。見つめているのは、あの日から目を覚まさない1人の少女。

「身体に異常はなかったのに、なんでナマエは目覚めないんだ」
「・・恐らく、だが」

総士は少し間をおいてから、まるであの日を思い出す様に目を閉じて話し始める。

部屋には無機質な機械音と、静かに語る総士の声がやたらと響いた。

「ナマエは、フェストゥムを通して外の世界を見たんだと思う」
「外の、世界・・」

クロッシングを通して流れて来たナマエの感情。

恐怖、絶望、そして罪悪感。とても深く、色濃いそれらを強く感じた。推測でしか無い。だが恐らく、ナマエはフェストゥム目線で世界を見たはずだ。

つまり、ただでさえ混乱している最中、自分が人を殺して回っている様な錯覚を起こした。

それが罪悪感と言う感情に繋がってるのでは無いか。

「僕はそう分析した」
「そう、か」

現に遠見先生も心の問題ではないか、と話している。そう、つまり、彼女が目を覚ましたくないと言う意志を示している。

そんな総士の言葉に一騎は煮え切らない返事を返す。自分の知らない世界。

総士と、多分・・ナマエが見たであろう、外の世界。島以外の世界。

「フェストゥムに同化されるとみんながそうなるのか?」
「いや、そんな事例はない。ナマエだから、だと思う」

意味深な物言いに一騎は更に違和感を募らせる。

ナマエについて何か知っている様な、でも自分は知らない事。それを突き付けられて、一騎ギュッと拳を握る。

「そうか、じゃあ俺は帰るよ」
「もう、帰るのか」

ナマエに背を向けた一騎に総士は声を掛ける。

「ああ、俺が居てもなにも出来ないしな」

そう言って一騎は部屋を出てしまった。話し相手がいなくなった部屋で、総士はしばらく一騎が出て行った扉を物想いにふけながら見つめていた。

やがてその視線を未だ目覚める気配のないナマエに向け、彼女の顔の見えるガラスに手を触れた。

「なにも出来ないのは、僕の方だ」

力なく発せられた言葉は、ただ静かな部屋に

音もなく消えていった。









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