09 大丈夫


「遠見先生、ナマエの状態は・・」

アルヴィス内、目の前の機械に入れられ、ピンク色の液体に浸された娘、ナマエを悲痛な面持ちで見つめながら、史彦は千鶴に問い掛ける。

数刻前、スフィンクス型のフェストゥムを倒し、同化された機体マークゼクスを回収した。

幸いにもフェストゥムを倒した時に機体の結晶化は解かれ、無事3人で帰還したかに思われた。

「ナマエ!!」

真っ先に一騎がコックピットに走り込む。だがそこにはただ、結晶の塊があるに過ぎなかった。

「くそ・・っ!」

一騎の後に続いた総士は、悔しさに拳を握りしめ、周りの大人達は絶望し、パイロット候補生達は未だに状況を把握出来ていない。

その様子を息を切らしながら父である史彦が見つめていた。最悪の事態は避けられた。だが、最悪だ。

一筋の汗がこめかみを伝い、何かに胸を鷲掴みにされた様な苦しさに襲われその場に崩れ去りそうになる。

「一騎!」

総士の声に史彦はハッと顔を上げた。

「やめろ一騎!お前まで同化するかも知れないんだ!」
「やめて!一騎くん!」

コックピットにあるナマエで あったモノ に手を伸ばす一騎に、総士や翔子は焦りの声を上げる。

「一騎・・!」

史彦も一歩踏み出す。もしかしたら、そんな考えが過る。一騎まで同化されてしまったら、亡き妻である紅音になんて言えばいい。

それにナマエは・・・

「大丈夫だ」

一騎はそう言ってそっとナマエに触れる。

「!!」

周りの人間が息を呑む。触れた右手から瞬く間に一騎の姿は消えてしまったからだ。


ーーーパリン


だがそれも一瞬の出来事だった。

「平気に決まってる」

砕けた欠片達が、キラキラと周囲に舞う。

「だって俺たちは、双子だから」

そう言って笑った一騎の腕の中には、頬を濡らしたナマエがいた。


















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