■
繁はヒュッと息を大きく吸い込んでから更に声の音量を上げて話し出した。
「理事長権限とか権力振り翳してんのは久志だろ!!そんな事するなんて最低だ!!何で皇達が生徒会を辞めさせられなきゃなんないんだよ!!てか、理事長は伯父さんだろ!偽物のくせして理事長なんて言うなんて…っ俺許せない!!!伯父さんどこ行ったんだよ!!返せよ!!伯父さんがこの学園の理事長だぞ偽物!!!!」
一息で言い切り大きく肩で息をしている繁に久志は心の中で拍手を送る。
一つは一気に言い切ったその肺活量に、一つは冒頭の自己紹介と生徒会に対しての報告書をもう覚えていないその単細胞な脳に、そして一つは何でもかんでも自分の都合良く、自分が正しいと思い込めるその想像力の豊かさに。
久志は嘲りを含んだ拍手を送った。
「君は、雪宮理事長代理に良く似ているね」
ポツリと呟いた言葉に「何だよ!?」と元気さを失わずに問い詰める繁に、久志は笑う。
「先ず君の言葉の何から答えようかな?生徒会の件についてはさっき報告書の内容を読んだ通りだよ。説明なんていらないよね。
私の事と君の伯父さんについては、自己紹介を聞いていなかったのかな?私は本家で決められた正式な、理事長だ。決して偽物なんかじゃないんだよ。言うなら…そうだね、君の伯父さんの方が偽物だよ。代理だったんだからね。ああ、伯父さんがどこに居るかなんて知らないよ。今頃どこかに売られていたりして…」
負けずに一息で繁の言葉一言一言に返事を返しても息を乱さず久志は細めた目で繁を見詰める。
少し驚いた様子の繁は一瞬言葉を失くすも直ぐに立ち直りかろうじて見える頬を真っ赤にして再び口を開いた。
「そんなの嘘ッ「ああ、それと権力を振り翳しているとかも言っていたね?」…ッ人の話を遮っちゃ駄目だって親に教わらなかったのか!最低だ!」
繁の言葉を遮って言えば矛先を変えてまた喚きだす。
何とも面白い生き物だな。
当然、久志はわざと遮ったのだ。
騒ぐ繁をじっと見つめたまま話を続ける。
「確かに私は権力を振り翳したよ。権限を使って強制的に生徒会を全員解任した」
自ら認めた久志に舞台下の生徒と教師は息を呑み、元生徒会の生徒は瞠目し、繁はほらどうだと勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
「やっぱりな!!っ「でも、君は何か勘違いをしているね」」
再度繁の発言を遮って久志は一度こちらを見つめる生徒達の方を見る。
「まず、権力と言うものは人を護るためのものだ。私には理事長としてこの学園と、学園に居る教員や生徒達を護る義務と言うものがある。分かるかい?つまり、学園の安寧を脅かすものを置いてはおけないんだよ。
ああ、そんなの差別だ…なんて幼稚園児のような事は言わないでね?雪宮君。生徒会の、いや、元生徒会の君達は学園にとってマイナスな事ばかり起こしてくれたよね?生徒達の目を見て居れば分かる。不安と恐怖、君達への失望。今現在、君達は学園の安寧を脅かす問題の塊なんだよ。
だから私は生徒達に安心を与えるために、この学園を護るためにその塊を壊す権力を振り翳したんだ。
だから勘違いしないでくれないかな?どこかの何も知らない無知なお坊ちゃんが好き勝手に振るう権力とは、その意味が違う」
淡々と、けれど力強く語る久志を生徒も教師も、全員が時を止めたように見詰める。
繁とその後ろで唇を噛み締める数人の生徒を鋭く見つめて久志は首を傾げた。
「本当なら、元生徒会の君達は退学にしても良かったんだよ。だけどそれをしなかったのは理事長としての情けだよ。君達は学園に残って、自分がどれだけ学園を歪めたのかを自覚しなきゃならない」
自覚しても、消える罪ではないけどね。
そう言って久志は笑った。
心底楽しそうに、愉しそうに笑った。
その表情に、繁さえも言葉を失う。
反論を探すように拳を握り締めて、まだ認められないのか久志を睨む様子に、気付かれないように微かな溜め息をつく。
雪宮繁にも飽きたな。
本当に子供だ。
幼稚園児のまま身体だけが大きくなった子供。
もう、良いか。
「ああそうだ、雪宮君にも伝えなくちゃいけない大切な事があるんだ。杉、あれを」
にっこりと綺麗に笑って杉に促せば、素早く差し出した手の平に三つ折りにされた紙が乗せられる。
杉も我慢の限界が近いのか。
その素早さに笑って、久志は怪訝そうな繁に紙を開いて見せた。
「雪宮繁。この学園に相応しくない生徒として、君に退学処分を通達する」
相応しくない、なんて言ったらまた君は噛みついてくるんだろうね?
それで良い。
その方が舞台のクライマックスとして盛り上がるというものだ。
さて、そろそろこの舞台も終わりにしようじゃないか。
- 7 -
嘆く 嗤う
戻る