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「残念だけど、君達の思い通りにはならないよ」
「…あ?」
「っそんなの、ただの戯言でしょう」
久志の一言に浮かんだ笑みを消して眉を寄せる桜木と強がる金髪の生徒の姿にふふ、と笑って人差し指を軽く唇に当てる。
「実は僕が理事長と決まってすぐ…君達のご両親にお会いしたんだ」
桜木や役員達の空気が、止まった。
目の前にいる久志を目を見開いて見つめ、その目が信じられないと語っている。
久志は生徒達の様子を意にも介せずまるで軽い報告のように言葉を続ける。
「君達に関するこの報告書をご両親に見せた上で、生徒会役員を解任する許可と頼み事を一つしたんだよ。…君達にもし何を頼まれても聞かないでくれ、ってね」
だから、親の権力で私を脅そうたって無駄だよ。
クスクスと愉しそうに笑って言う久志の瞳は鋭く、桜木達は喰われる前の獲物のような錯覚に陥った。
余裕そうな笑みなど当に消えていた。
「とても物分かりの良いご両親達で助かったよ。自分の息子のした事を遺憾として、親としての責任も感じていらした。後、学園内で自分の息子が起こした問題についての対処は全て私に一任すると言ってくれたよ」
それは何を意味するのか。
考えるだけで愉しいね?とても愉しいよ。
役員達の真っ青な表情にニヤリと目を細める。
「さて、……親の権力とプライドしか持たない今の君達から、権力が無くなってしまえばどうなるのかな?」
残るのは、何の強みにもならないただ大きいだけのプライド。
「権力を嫌いだと豪語しながら親の権力を自分のものだと勘違いして奮い、その上に胡坐をかくと…いつか必ず破滅する」
今、君達はまさにそうだね。
その手の中には何もない。
ギリギリと強く拳を握り締めて親の敵とばかりに睨みつける桜木と金髪の生徒からの視線など久志にとっては痛くも痒くもない。
ほら自覚しなよ、君達はこんなにも非力で甘えた人間だ。
「……ックソ!!ぜってぇ、許さねぇ…!!」
低い低い感情を押し殺し切れていない桜木の声音。
その中にあるのは恨み、憎しみ。
久志からすれば、それさえ愉しみの一部にしかならない。
「許されなくて結構。もしなんだったら退学しても良いんだよ?もう義務教育でもないんだしね」
その一言に、"元"生徒会の生徒達は口を噤む。
退学、なんて出来るわけないよねぇ。
中には親の後を継ぐかもしれない子もいるみたいだし。
まぁそれも、今回の事で考え直すと親達が言っていたけど…。
一瞬口を開きかけて、直ぐに言わなくても良いかと考え直す。
いつか分かる時まで黙っていた方が愉しそうだ。
心の中でほくそ笑み、言葉もなく睨むだけの桜木達から一度目を逸らす。
さぁ、取り敢えずは生徒会は片付いたと言う事で良いだろう。
杉に必要のなくなった書類を渡す。
次の瞬間――
「…ッいい加減にしろよ!!!!」
今まで口を閉ざしていた雪宮繁が、もう耐えられないとばかりに甲高い声で叫んだ。
フルフルと身体を震わせて久志を睨む。
と言っても眼鏡と前髪が邪魔で目が見えないから睨んでいるかもしれない、だけれど。
そうだ、まだ一番の問題が残っているじゃないか。
久志はそっと溜め息をついて今度は繁へと目を向ける。
繁は、桜木の前に進み出て腰に手を当てている。
まるで、今から小さな子供を叱る前の親のような態度だ。
こんな奴が親なら、俺は絶対家出するな。
そう考えた久志は思わず笑ってしまった。
勿論良い笑みなんかじゃない。
馬鹿にしたようなそれを浮かべて、首を傾ける。
「いい加減に、とはどう言うことかな?雪宮君」
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嘆く 嗤う
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