■
ズカズカと舞台の上まで進み桜木と久志の間に威張るように腰に手を当てて立つ少年。
髪は真っ黒でボサボサ。前髪が長すぎて顔の半分を覆ってしまっている。更に太い黒縁の眼鏡を掛けている。
一目見て、不潔だ。と思ってしまうようなその容姿の少年。
言わずもがな、理事長代理だった雪宮透の甥、雪宮繁だ。
流石の久志でさえ微かに眉根を寄せてしまうが、生徒会の生徒達は違ったようで少し空気が柔らかくなった。
「おい!!聞いてんのかよアンタ!!伯父さんはどこに行ったんだよ!!!!言え!!」
学園の一生徒であるはずの繁の口から飛び出す命令形での言葉。
立場が分かっていないのか、それとも自分が久志よりも偉いと思い違いをしているのか。
どちらにしても、無知すぎるその言動。
さて、どうするか。
脳を回転させて考えながら、久志は再び顔に笑みを貼り付けて首を傾げる。
「君は、雪宮繁くんだね。編入生の。話はよく聞いているよ」
「あ!そうだっ、俺は繁!!繁って呼んでくれよ!!えっと、久志!!!!」
眼鏡と前髪越しにキツイ視線を向けていたはずなのに、久志が問い掛けると途端に笑顔になって手を差し出してくる。
久志、そう呼んだ瞬間舞台の下から繁へと凍てつくような杉の視線を感じた。
そこに込められた感情は軽蔑。
「雪宮君。私はこの学園の理事長だ。立場を弁えなくてはいけないんじゃないかな?」
「っなんだよ!!良いじゃんか馬鹿!!!俺と久志の仲だろ!?」
どんな仲だ。
接着剤のように貼り付けられていた久志の笑みが崩れかかる。
ヒクリ、と口元を引き攣らせるものの何とか堪える。
これは、思ったよりも厄介な人間だな。
取り敢えず、と何かを考えた久志は繁から身体ごと逸らして舞台の下に居る生徒達に向き直った。
「さて、言い忘れていたんだけどね。これから私が理事長を任されたのに当たり、学園改革を行おうと思います」
凛とした声がマイクを通じて体育館全体に響く。
その瞬間、今まで蚊帳の外にされていた生徒と教員は戸惑い、繁の後ろに居た桜木が表情を険しくして前に進み出て来る。
「おい……何ふざけたこと言ってやがる」
「これは雪澤家本家でも決まった事だよ。桜木くん、この学園には今問題がいくつもあるようだね?それには君達生徒会も関わっていると聞いたけど?」
燃え上がらんとするような怒気を身体に纏わせた桜木に、細めた眼を向ける。
告げた言葉に心当たりがあるのかグッと唇を噛み締めて黙った桜木にうっそりと微笑む。
そしてざわめく体育館へと意識を向けて口を開いた。
「理事長権限において、本日付けで生徒会役員を全員解任する」
さぁ、ここからが本番だ。
- 4 -
嘆く 嗤う
戻る