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いきなりの緊急全校集会。
授業の途中で体育館に集められた生徒・教職員達はザワザワとざわめき戸惑いを隠せない様子だ。
久志は舞台裏からこっそりとその様子を楽しそうに覗き見る。
整列した生徒達の中、他とは空気もその容姿さえ比べ物にならないほど輝いている生徒が数人いる。
きっとあれが生徒会の人間だろう。
愉しみだ…。
紅い唇を舌で舐めながら、笑う久志はさながら、獲物を前にした獰猛な猛獣のようだ。
「お静かに」
ガガ、とマイクのスイッチが入り体育館の中に秘書である杉の声が響く。
途端ざわついていた生徒も教師も口を閉ざし、壇上下に立っている杉を見つめる。
まったく、人の操るのが上手いな。
そんな事を呑気に考えている久志を余所に杉の進行は進む。
「まずは先生方、緊急の集会と言う事で授業を中断させてしまい誠に申し訳ありませんでした」
そう言って杉が頭を下げると教師たちは緊張しているのか首を横に振っている。
中には、本当だと言わんばかりに顔を歪めている教師もいるが。
「そして、生徒諸君の大切な授業を止めてしまって申し訳ありません」
杉は続けて生徒にも律儀に頭を下げる。
生徒達は恐縮しながらも「気にしないで下さい!」と声を上げる者に続きそれに賛同する生徒もいる。
頭を上げた杉は二コリと笑みを浮かべた。
その瞬間、またざわつき始めた体育館内が静かになって、皆が杉を見つめる。それこそ生徒会の生徒も。
杉は美人だからなぁ。
クックッと笑って久志は楽しそうに目を細めたまま自分の出番を待つ。
ああ、早く俺の紹介に移れ杉。
「ありがとうございます。さて、皆さんに集まって頂いたのは紹介しなければいけない方が居るからです」
久志の心情を理解したように司会の杉は話を変えて話し始める。
―紹介しなければならない方。
その言葉に生徒達がヒソヒソと微かなさざめきを持って話しだす。
教師も当然予想していなかった事だからか隣の教師と互いに情報を聞き合っている。
それでも杉が小さく咳をすればその声も止み、再び体育館は静寂に包まれた。
しん、とした中、杉が口を開く
「先日、雪澤家より我が雪学園高等部の正式な理事長が選任されましたので、ご紹介いたします。
雪澤久志学園理事長です」
久志は、杉のその紹介を合図に舞台袖から壇上の上へと姿を現した。
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嘆く 嗤う
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