寮です。



深夜の寮、例にも漏れず自室で仕事をしていた辰貴は空腹感に襲われた。
夜ご飯はまた昼のようになるのは嫌だと幼馴染の部屋でご馳走になったのはもう数時間前の事だ。

頭を使った分もう腹の虫が何度も鳴いている。
こんな時、同室者がいなくて良かったと思う。
こんな音を聞かれた日には恥ずかしくて顔を合わせられない。


「コンビニ、行くかなー」


坊ちゃん校だからかコンビニまである学園の寮内。
それこそ最初は何て経費の無駄遣いだと思っていたが、最近はコンビニの存在が本当にありがたく感じる。
辰貴は自炊が出来ない。
どんなにお腹が空いても深夜に食堂なんて開いているわけが無い。
そんな時に24時間体制のコンビニの存在がキラリと光る。


「明日の夜食も買っとくか」


仕事の息抜きにもなると少し身体から力を抜いてウキウキと自室を出る。
エレベーターに乗って一階へ。

寮の入口を入って直ぐの所にその青い看板のコンビニがある。
辰貴的には数字のコンビニの方が好みだが、こっちも意外といける。


「いらっしゃいませー」


店員の気の抜けた挨拶を聞きながらカゴを片手に店内をぶらつく。

ああ、後で涙先輩にも差し入れ持って行こうかな…。
おにぎりを片手に思う。

もう寝てるだろうか。
倒れたりはしていないだろうか。
一度心配し始めるときりが無い。




辰貴は生徒会第二会計だが、まだ一年生だ。
なのにこんなに遅くまで持ち帰った仕事をしている。
本来ならば有り得ない事だ。

それでも、辰貴の任される仕事はやはり簡単な物が多い。
簡単な計算を必要とする書類、それにコピーや委員会や部活動の部長などへの伝達、事務系の仕事が主に辰貴の役目となっている。
そしてそれは量はあれど、膨大な仕事の中のほんの一端。


本当に重要な書類は、今は全て涙がこなしている。
今の時期、生徒会室にある書類の三分の二は重要書類だ。

それを片付けているのは、貧血持ちで優しい副会長。



「……っくそッ」


自分の非力さが恨めしい。
辰貴は握り潰さないようにとおにぎりをカゴに入れた。










パンにおにぎりに飲み物と甘いお菓子。
一気に買い込んだ末、辰貴の両手は大きな袋で塞がれていた。


「ちょっと買い過ぎた…」


はぁ、と溜め息をついて「ありがとーざいましたー」という店員の声を背にコンビニを出る。
早く部屋に帰ろう。
その一心でエレベーターに向かう。




「……辰、貴?」




エレベーターに着き一度袋を下ろしてボタンを押している時だった。
聞き慣れた声で、名前を呼ばれた。
その声の持ち主には、久しく呼ばれていなかったからか反射的に辰貴の肩が跳ねる。



ゆっくりと振り返った先に見えたのは、同じ会計の先輩で無口だけれどとても優しかった山内陽介の姿だった。



「…よう、山内先輩……」


一瞬癖で呼びそうになった名前を、わざわざ名字で呼び直す。
その瞬間、形の良い眉が中心に向かって微かに寄せられた。





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