情けないです。




目が覚めて、霞む視界にまず入って来たのは白い天井だった。




「……っぅ、あれ…僕……?」


どうしていきなりこんな事になっているのか分からない。

起き上がろうとして、吐き気と眩暈に再びベッドに沈む。


働かない頭を必死に動かして、涙は思い出そうと目を閉じた。



確か書類の事で顧問の意見を聞こうと思って、辰貴に休憩するように伝えてから職員室へ向かっていたはずだ。

もうすぐ職員室。
お昼はどうしよう。

そんな事を考えていた。


そしてそこからの記憶が、無い。



「ああ…また、貧血…」


思い出して、口から零れたのは疲労の滲む溜め息と掠れた声だった。



涙は手の甲を目元に押し当てて、胸の辺りをぐるぐると渦巻く吐き気に耐える。


何と不甲斐ない事か。
貧血で倒れるたびに涙は自分が情けなくなる。


少し運動しただけで意識を失い、生徒会に入ってもあまり仕事を任せてはもらえなかった。
「倒れたら面倒だろう」と、一度会長に怒られたこともある。
その時は一人部屋で静かに泣いた。

情けなかった。
忙しい皆に逆に気を遣わせていた自分が、皆の足手まといになっていた自分が、情けなかった。



「そろそろ、仕事に戻らないと……」


こんな風に倒れている場合じゃない。
まだ、やらなきゃいけない仕事は山ほどあるのだ。

保健室のベッドにしては寝心地の良いベッドに手をついて、涙は吐き気が強くなるのも構わず起き上がる。
まだ視界が少しゆらゆらと揺れている気がする。


上川くんは、今頃生徒会室にいるんだろうか。


上靴を履いて考えるのは後輩の事。
まず謝らなくちゃ。
きっと心配している。

そう考えて、尚更早く戻らなくてはと涙はベッドを囲っていたカーテンを勢い良く開いた。


「……ッ先輩!?」

「え?」


少し驚いたように息を呑む気配がしたと思った次の瞬間、名前を呼ばれる。
その聞き慣れた声に俯いていた顔を上げた涙の視界に入ったのは、目をまん丸く開いた辰貴と、その辰貴に胸倉を掴まれている“仲間”の姿。




「…さ、なぎ……」



辛そうな、痛そうな顔でこちらを見つめて、久しぶりに呼ばれた名前に小さく肩が跳ねる。





「……陽介、くん?」



何故か少し息を切らした陽介が、そこに居た。





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