突き落とされて、壊れてく



メールを無視しても良かったのに、結局俺は今、廉次の家の前にいる。



今更ながら怖くなってきた。


だけど、その中に期待も入り混じっていて、感情はドロドロだ。



そもそもどうして呼ばれたのかが分からない。
もしかしたら、別れ話かもしれない。



そうなったらどうしようか。



取り敢えず、章吾に言わないと。

それから、俺はどうなるんだろう。


狂うかもしれないな。



ふと浮かんだ考えが、ストンと胸の中に落ちてきた。
狂うかもしれない。

廉次が好きで、好きで好き過ぎて…。

だけど確かに憎い心もあって、狂うかもしれない。



親友のように。






いつまでも家の前でじっとしていたら不審者と間違われそうだから、覚悟を決めてドアノブに手を伸ばす。


鍵は、メールに書いてあったように掛かっていなかった。




ガチャリと音を立てて、扉を開く。




「…れ、んじ?」


静かな室内に、不審に思って小さくこの家の主の名前を呼べば、カタンと、リビングの方から音がした。


「廉次?」


靴を脱いであの日以来の廊下を進む。
半開きになったリビングの扉をそっと開いて、中を覗いた。




「あ……っ」



覗いた事を、後悔した。

ソファで重なりあう影がゆっくりと離れて、直ぐにまた重なる。



どうして、お前はそうなんだよ。




ドアノブを握っていた手から力が抜けて、滑り落ちる。
唇を貪り合う二人は、俺に気付かない。



もう、怒鳴る気力もなかった。




「……ははっ」



乾いた笑いが口から零れる。
微かでも期待していた自分が堪らなく可笑しくて、滑稽で、馬鹿らしかった。




ゆっくりと踵を返して、玄関へ戻る。
靴を履いて、静かに扉の外へ。





もう、廉次が何を考えているのかが分からない。

俺に、どうして欲しいのかが分からない。



もう何にも、分からない。




ただ、狂おしいほどの愛情が黒く濁って、身体中を包み込むのを、ただただ感じていた。





廉次の家から離れながら、携帯を取り出して電話を掛ける。

少しのコール音の後聞こえた、小さな頃から聞き慣れた声に、薄く笑みを浮かべて告げる。





「そろそろ、次の段階に移らねぇ?昼飯だけじゃあんま効果ないだろ」





返って来たのは、当然肯定の言葉。


通話を終えて、見上げた空は、今にも雨が降りそうな程暗く淀んでいる。






そうして心のどこかが小さな悲鳴を挙げているのを、俺は、聞こえないふりをした。



救いの無い復讐劇
突き落とされて、壊れてく




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