疑心と羨望と…




復讐が始まって数日が経った。

長いようで短い数日。



「棗、今日は飯一緒に食えんだろ」

「あー悪い。今日も無理」

「は?お前ふざけんなよ、付き合い悪ぃな」

「ごめんって。良いじゃん、章吾と鴇貴くんと食えよ」

「言われなくても食うよ」



俺は、ずっと四人での昼食を断っている。





章吾はたまに一緒に食べているらしいけど、それでも四人での昼食が減ったのは確かだ。
だって、章吾が廉次達と食べられない日は、俺と二人で弁当を食べているから。





昨日、非常階段で食べていた時章吾が「鴇貴が最近妙に俺を離そうとしねぇ」と言っていた。

前まではこんなに章吾が昼食を断るなんて事なかったから、もしかしたら何かに気付き始めているのかもしれない。
俺から見ても、鴇貴くんは前よりも章吾の傍にいるような気がする。




鴇貴くんは、やっぱり章吾が好きなんだ……。

章吾も、憎しみの裏側には鴇貴くんへの愛情がまだある。


じゃなきゃあんな風な笑みを浮かべられない。

愛おしそうな、だけど裏切られたことへの憎しみを孕んだ、歪んだ笑顔。
一歩間違えば狂ってしまいそうな表情。





俺達とは違う。





廉次は、きっともう俺の事なんか好きじゃない。

羨ましい。
章吾が、鴇貴くんが。



この数日を思い出して浮かぶのは、廉次のどうでも良さそうな態度。
俺なんか、居てもいなくても変わらない。


廉次の中に、俺はいない。






「俺達は、まだコイビトなのか?…廉次」






俺は、お前をまだ愛してる。
浮気をされても、何度嘘を吐かれても。
最低なお前に、惹かれてる






昼休み、一人非常階段でぼんやりと考える。
今頃教室で三人がご飯を食べている。

羨ましい。



そんなことばかりを考える俺は、きっと凄く嫌な人間だ。




不意に、携帯がポケットの中で震え出した。




「……廉次」




ディスプレイには恋人の名前と新着メールの文字。




『今日、家に来いよ。鍵は開けとく』






メールの内容に、ドクンと心臓が鳴った。


どこまでも自分勝手で、それでも優しい所もあるお前に、俺はどうしようもなく惹かれてるんだ。

廉次……お前は今何を考えてる?
何を考えて、俺にこんなメールを送ったんだよ。



問い掛けに答えてくれる声なんてある訳が無い。




携帯をぎゅっと握り締めると、使い古されたそれから微かにミシって音がした。





救いの無い復讐劇
疑心と羨望と…




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