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崩れ始めた輪
次の日俺はいつもと同じように近所に住む親友と登校した。
互いに何気ない会話を交わすけど、どこか違う。
多分、親友なのに、もう親友じゃなくなったから。
「棗、今日の昼は一緒に食うぞ」
「いつも一緒に食ってんだろ」
「ちげぇよ。二人で食うんだ。鴇貴達は上手く誤魔化して非常階段のとこ集合。良いな?」
首を傾げる親友は聞いているのに反論を許さない。
その瞳が歪んでるのを見て、俺の目もこんな風になってるのかと、少し思った。
「分かった」
俺には、こう答えることしかできなかった。
学校に着いて、ダラダラと教室に向かう。
「あ、章吾、棗くんおはよう」
教室に入った瞬間俺達に気付いたらしい人物がパッと表情を明るくして挨拶してきた。
その声は、昨日寝室越しに聞こえた声と同じ。
「……鴇貴」
「…はよ、鴇貴くん」
俺は、ちゃんと笑えているだろうか。
親友…章吾は口元に笑みを浮かべて、ちゃんとした笑顔。
鴇貴くんは嬉しそうに章吾に近づいて、昨日アイツの背中に回しただろう手で章吾に触れる。
何で、そんな普通に出来るんだ。
まるで、昨日の事なんか無かったような態度。
アイツの恋人である俺にも変わらない。
恋人である章吾への態度も変わらない。
何も、感じていないのかな。
何だか、訳も分からず怖くなる。
「…棗、おせぇよ」
「っ、廉次…おはよ」
鴇貴くんの後ろから現れたアイツ…。
廉次。
ニヤリと笑う姿は嫌味なはずなのに、端正な容姿には良く似合う。
平凡な俺の、恋人。
「章吾も、あんま棗とくっ付いてんじゃねぇぞ?」
「ははっ俺には鴇貴がいるから有り得ないって何回言えばわかんだよ」
楽しそうに冗談を言い合う二人と、それを楽しそうに見る鴇貴くん。
それは、いつもと何ら変わりない俺達の日常。
「なぁ棗、俺等がくっ付くなんて有り得ないよな?」
いつもの章吾の笑顔。
だけど、細められた目の奥は、暗い。
「有り得ないって。てか、章吾をそんな風に見るとか一生ねぇ」
一緒になって俺も笑う。冗談だと分かるようなチャラけた口調で。
「逆にひでぇ!」って章吾が笑って、鴇貴くんも廉次も笑う。
変わらないのは表面上。
なら裏側は?
「あ、そーだ鴇貴。今日ちょっと先輩に呼ばれちゃってさ、昼飯一緒に食えそうにないんだ…わりぃ」
「え、そっか……うん。先輩に呼ばれたなら仕方ないよ、明日は一緒に食べようね」
「廉次、俺も今日ピンチヒッターで図書委員の当番になったから昼飯食うの無理んなった」
「あ?何だよ。ったく棗はお人好し過ぎんだよ…別に良いけどな。じゃあ今日の昼は鴇貴と二人か…」
少しずつ、少しずつ崩れていく。
二人は気付くだろうか。
気付いたとしても、もう遅い。
チラリと見た親友と一瞬視線が絡み合い、俺は咄嗟に目を逸らした。
後戻りは、もう出来ない。
そう、瞳が言っている気がした。
救いの無い復讐劇
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