壊れる心と壊れた心





「棗…お前も、廉次に浮気されまくって…許せないだろ?」


感情を押し殺した声で、親友が呟いた。



まだ、寝室の前から動けないでいる俺達を置いて、部屋の中ではまた始まった行為の音が漏れ聞こえてくる。



「……さぁ、もうわかんねぇよ。許せないのか…どうでも良いのか」


心なんか、とっくの昔に麻痺して壊れた。
いつから、アイツを責める時に涙が出なくなったんだろう。


乾いた笑みを浮かべて言う俺の肩を親友が掴んで向き合わせる。
掴む手の力の強さに、痛みを感じた。




「俺は、許せねぇよ…っ鴇貴も、廉次も…!」

俺の恋人なのに、俺の恋人だと知っているのに!!




ギラギラとした眼差しの親友に、ここに来るまでのあの優しい親友の影は微塵も無かった。
親友は鴇貴くんを愛していたから、心が耐えられなかったのかな。

ぼんやりと考える俺の耳に届いた言葉。







「なぁ、棗……復讐、しないか?」






それは、引き返せない誘いの言葉。
親友の目は、断る事を許してはいなかった。


それに、俺にとってもその言葉は甘美な響きを持っていたんだ。









『…っ鴇貴、好きだ…っ』




俺は、いつから廉次に『好きだ』と言われてないんだろう。


どうして、鴇貴くんには言うんだろう。







「…良いかもね、それ」


気付けば、答えていた俺に、親友がニヤリと笑う。




「じゃあ、俺達も浮気しようぜ。二人に、仕返ししてやるんだ」


同じ痛みを、俺たち以上の痛みを感じれば良い。
そう言って親友は綺麗に、笑ったんだ。









その日から、俺と親友の密かな復讐が始まった。



救いの無い復讐劇
壊れる心と壊れた心






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