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転がり始めた僕等
寝室の扉越しに聞こえた聞き覚えのある二つの声に、固まった。
いつもなら、ここで俺は寝室に飛び込んでアイツを怒鳴る。
だけど今日は、その“いつも”じゃない。
「……どう、して…」
隣に立っていた親友が呆然と呟いた。
目を見開いて、唇をワナワナと震わせながらの掠れた声。
信じられない様子の親友を前に、俺は妙に冷静だった。
否、冷静になろうとしていた。
『あ…っぁ、廉、次!』
『はっ…鴇貴、好きだ…っ』
「どうして…ッ鴇貴が廉次と…ッ!!」
だって寝室越しに聞こえるこの声は、俺の恋人の廉次と、親友の恋人の鴇貴くんが愛し合っている声なんだから。
「……っ許せねぇ」
親友の目に、愛情から姿を変えた憎悪がチラリと揺らいだ。
坂を転がる石と同じように、俺達も転がり始めて、落ちていく。
救いの無い復讐劇
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