遠い君にキスをした



知っているよ。
日吉があの子を気にかけていることも、あの子が日吉を目で追っていることも。
分かっているから伝えたいんだ。
俺は性格が悪いのかな。
日吉に、俺が思っていたことを、知っていて欲しくて。
そして、伝えておけばよかった、なんて後悔しないように。
今日、君に思いをーー



屋上へ続く階段に、日吉はいた。
「話ってなんだ」
そう言ってこっちを見てくる視線は、いつもと変わらない。
高鳴る胸を静かに、静かに落ち着かせながら、俺は日吉の手を引いた。
「屋上、行こう」
俺は屋上へ至るドアを開けた。
おい、と漏らす日吉を敢えて無視して、屋上へ踏み出す。
突き刺さる陽射しの強さに目が眩みそうになったけれど、俺は転落防止用の柵まで、日吉を連れて歩いた。
「ねえ、日吉」
くるりと振り返って、日吉を見据える。
「言っておきたいことがあるんだ」
鋭い視線が、俺の目を貫く。
下から見上げられてるというのに、それを感じさせないような、鋭い視線。
不機嫌そうに見えるけれど、別に怒っているわけじゃないってこと、知ってるよ。
ねえ日吉、あの子はそういうところに気づけているのかな。
すうっと息を吸って、俺は真っ直ぐな言葉を選んだ。
「俺は、日吉のことがずっと好きだった」
「……なに、言ってんだ」
「でもさ、日吉はある女子のこと、好きだろ? だから、この告白は過去形……寂しいけどね」
ありのまま気持ちを、言いたいことを口に出すと、日吉は驚いたような顔をした。
俺がお前のこと好きだっていうのと、好きな人がいるっていうことが俺にバレていたのと、両方に驚いてるのかな。
日吉は少し、視線を下に向けた。
「そうか……」
そして、何かを考えるように目を閉じる。
きっと頭の中を整理しているんだろう。
そうだよね、困るよね。こんなこと急に言われたら。

やがて、日吉はゆっくりと目を開いた。
真っ直ぐに俺を見つめて、日吉は言う。
「何て言えばいいのか、言葉が出てこねぇけど……その、あり、がとう」
意外な言葉に、少し目を見開く。
まさかお礼を言われるなんて思ってもいなかった。
社交辞令か、それとも遠回しな拒絶か。どちらにせよ、手酷くあしらわれなくて安心した。
日吉はこういうところに、意外と気が利くんだ。
「…いいや、こっちこそありがとう。すっきりした」
俺はそう言うと、右手のひらで、日吉の両目を覆った。
「なにをしてる」
「……」
ごめんね、日吉。でもこれで、きっと忘れないでしょ。
俺は目隠しをした日吉の唇に、触れるだけのキスをした。
「……?」
「幸せに、なれるといいね」
何が起きたのか、という表情の日吉にそう言って、俺は屋上から立ち去った。

誰より近い場所にいたような、そんな気がしていたよ。
でも、いつの間にかお前は遠くに行っていた。
俺とお前との距離がゼロになった一瞬間。そしてその後、もっと遠くになったような気もしたんだ。
もう何もかも、過去のことなんだけど。


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