まるでかなしい恋愛劇



※死ネタ・鬱注意



どうして同じでは駄目なんでしょうね。
同じだからこそ惹かれ合う――そういう考えは間違ってないはずでしょう?
禁忌とされている同性同士の恋愛。
俺とあの人はそれにおちた。

跡部さんが好きだった。いや、好きだ。
今も、昔も、何年も好きで、愛していて、それを素直に告げた回数は少なかったが、あの人は俺に愛の言葉をたくさんくれた。
俺じゃ絶対言えないような、少し(いや、かなりか?)恥ずかしい言葉や、美しい言葉で俺を満たしてくれた。
意地悪も随分されたな。
あの人は俺をからかうのが好きで、俺はあの人にからかわれるのが、まあ……悔しかったが、嫌じゃなかった。
いつか下剋上してやる! 意地悪をされる度にそう思ってた。

初めて手をつないだのは何時だっただろう?
誰にも見られないように……そうやって慎重に、ゆっくりと握り合った手のあたたかさは今でも覚えている。
初めてしたキスは跡部さんの部屋で、いつも偉そうなあの人からは想像出来ないほど優しく、丁寧な口づけだった。
それから、今度は俺からキスを返した。
不器用なキスだったと思う。何せ初めてだったのだから。
顔の紅潮を隠すように俯いていたら、「下手なキスも日吉らしくて良い」と、跡部さんは笑った。


本当に幸せな日々だった。
すべてが輝いて見えた、光に満ちたようだった毎日。
ずっと続きますように、なんて、柄にもなく祈ったりして。
終わりを危惧することを忘れた時は無かったけど、二人は一緒に生きられる、そう信じていた。
世の中をろくに知らない、子供な俺達だったから。


終わりは唐突に訪れた。
俺達の関係が、バレてしまったから。
どこから、いつ、バレたのか。見当は今でもつかない。
でも、世間に“跡部財閥の御子息の恋人は同性!?”という噂が知れ渡り、学校では“跡部と日吉がデキてる!”と冷やかしの嵐。
「違う、誤解だ」――そう否定してもよかったかもしれない。
そうすればあの人だって苦しまずに済んだ。
だが、それもつらかった。いや、その方が苦しかった。
俺の我が侭でしかないけど、今まで愛し合ってきた日々を否定してしまえば、俺は自分を拒絶することになる。
跡部さんと恋に落ちたことは、間違いなんかじゃないから。
だから、それは、出来なかった。

跡部さんも、俺との関係を否定することをしなかった。
世間から注がれる好奇の目を気にも留めず、あの人は黙していた。
何を考えているんだろう、会って話したい、手を繋ぎたい、キスをしたい――すべてもういけないことなんだと抑え込んでは耐えた。
見知らぬ生徒から“気持ち悪い”と罵られて暴力を振るわれることもあった。
身体は動けないほど痛くても、心はあの人を思うことで保たれた。
どんな事があっても二人の愛は消えない。くさい言葉だけどそれは本当だった。
一緒にいることが叶わなくなっても思いはずっと続いていた。今も、現在も。



「日吉」
優しい声に誘われて、日吉はゆっくり瞼を開く。
いろいろな事があった人生だけれど、今振り返れば意外と短いものだ。
「跡部さん」
握り合っている手に、更に力を込める。
二人の目の前には何処までも青い海が広がっていた。
そのまま歩いていけば海へ辿り着ける。
「愛してる」
「はい、俺も愛してます」
二人は柔らかく微笑んで見つめ合った。
潮風が二人を急かすように纏わりつく。
「俺達が恋人になるのは、運命であり必然だった。今ならそう分かる」
「ええ…それに逆らうことは、出来ないですね」
「だから――」
二人は一歩、また一歩と歩き出す。
地面はどこまでも続いているわけではない。
それを知りながら、二人は歩き続ける。
繋いだ手から伝わり合う体温が心地良い。
「跡部さん」
「どうした?」
「幸せでした。いや、幸せです」
「ふっ…俺もだ」
地面が途切れる一歩手前で、二人は一旦立ち止まった。
そして、長い口づけを交わした。
唇を離して、目が合うと、二人は微笑んだ。
(ああ、さようなら)
やがて二人は一歩を踏み出した。
少し経つと二人の姿は、深く青い海へ溶けていった。


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