眠れる王子様…?



氷帝学園、昼休み。
昼食を済ませ、暑さを和らげる木陰の下、日吉と芥川は静かな昼下がりを過ごしていた。
日吉は木の幹に寄りかかり怪談の本を読み、芥川はそんな彼の膝を借りて昼寝をしている。
日吉の読んでいる“恐怖、日本の怪談短編集”という、とてもおどろおどろしい本は、穏やかな昼間と似合っていなくて少し可笑しい。
先週から読みはじめて、ついに今、その短編集の最後の話を読み終わった。
(普通だったな…)
日吉は本を閉じ、少し空を見上げた後、視線を膝に落とした。
気持ちよさそうに、芥川はすやすや眠っている。
(俺の膝なんかで寝て、寝心地はいいのか…?)
日吉は前々からそう思っていたが、芥川の寝顔はいつも安らかだから問題はないのだろうと察する。
そして、膝枕をして、と要求され、一度は断るものの何だかんだで膝を貸してしまう日吉も、満更ではないだろう。

先輩であるというのは重々承知だ。
しかし、無邪気な表情で眠る芥川は可愛らしいと、日吉は思った。
日吉はまるで年下に接するかのように、芥川の髪を撫でた。
ふわふわしている。さわり心地が良い。
真っ直ぐな日吉の髪には無い、独自の手触り――
(……癖になるな)
「あはは…っ…………むにゃ…」
「!!」
(…なんだ、起きたかと思った……)
くすぐったかったのか芥川は少し笑い、またすぐに眠りについた。
日吉は芥川の髪を撫でる手を止め、目線を空へ移した。晴れ渡る青空に雲は少ない。
それから校舎の時計を見た。
あと五分程で昼休みが終了し、授業が始まってしまう。
「あくたがわさん」
日吉はいつものように芥川を起こし、授業に行かねばと思った。
しかし、目蓋と体が重たい。どうやら睡魔が襲ってきたらしい。
日吉は何とかして意識を保とうとしたが、いつの間にか目を閉じて、眠りについてしまった。




「…んん〜……あれぇ? 日吉……?」
芥川が目を覚ました時には、もう授業はとっくに始まっていた。
そして日吉はというと、珍しいことにぐっすりと眠っていた。
いつもならこうなる前に起こしてくれるのに、日吉が授業をサボるなんてことないのに…と、芥川は思った。
(でも…日吉だって、寝たいときはあるよねぇ……)
芥川は静かに体を起こした。
そして、日吉の隣に腰を下ろした。
すぐ隣で日吉の寝息が聞こえてくる。寝顔は無表情に近かった。
(……かわEかも…)
だが、芥川にとっては、無防備に眠っている日吉自体が愛しく思えた。
「へへっ…おやすみ、日吉」
芥川は日吉の頬に口づけをした。
そして回り込んで、次は唇に口づけをした。
「……ん、…あ、芥川さん…?」
「あれ、日吉、起きた〜?」
「今何したんで……今何時ですか!?」
「えっとね…五時間目がもうすぐ終わるくらい、かなぁ」
「……まあいいか」
「うんうん。たまにはサボるのもいいよね〜」
「あんたは“たまに”じゃないでしょう…」
「まあまあ。それよりさあ、日吉、俺のキスで起きたよね」
「き、キス…!?」
にやりと笑って言った芥川に、日吉は目を見開く。
「キスで目が覚めるって〜…お姫様、だよね?」
「ちっ、違います。俺は違います」
「日吉慌ててるC〜! 図星ー?」
「そんなの偶然ですよ…!」
自分がうっかり寝てしまったこと、そして芥川の口づけで目覚めたこと――日吉は顔が熱くなっていくのを感じた。
「ああもう……」
「こういう事があったら、またキスで起こしてあげるからね〜」
「結構ですっ!」


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