*log.再録

*SFC・S設定
*「そして恐怖は繰り返す」系のおはなし




 蝉の命は繰り返すって、知っているかい?

 蝉だよ蝉。大きな奴でも小さな奴でも、黒いのでも茶色いのでも、ミンミンゼミでもクマゼミでもひぐらしでもツクツクボウシでもチョウセンケナガニイニイでも、なんでもいい。どれでも好きなのを思い浮かべてくれて構わない。ずーっと土の中にいて、ようやく外に出て騒がしくなき続けて、そして一週間でポトリと落ちてしまう、アレ。それだけ想像出来れば、後はなんだって構わない。目の前の彼は、そう言う。そして、ぴしり、と一本。右手の長い人差し指を立ててまた、にやにやと、笑う。

 一週間。

 この憐れな虫たちが地上で生き続けることの出来る大体の時間だよ。君だって、そのくらいのことは知っているだろう。その蝉さ。その蝉の、命は繰り返すんだ。蝉には同じ数の魂しかない。蝉の魂は、ずっと、蝉のまんまなんだ。蝉は土から這い出て、泣いて落ちて土に返って、それからまた、蝉になって土の中で目を覚ます。何度も何度も、蝉は蝉として生きて、死んで、また次の年、蝉になって目を覚ます。それをずぅっと、繰り返すんだ。地球が廻って季節が巡って、夏と呼ばれる季節が訪れる限り、ずぅっとね。

 蝉の魂が何個あるかなんて、そんなことは知らないよ。けれどその数は有限なんだ。固定されて、決まっている。蝉の魂は、蝉にしか宿らない。蝉は、蝉にしかなれないし、蝉でしかいられない。毎年毎年、夏の度に、それを繰り返してなき続けるんだ。

 君は、蝉がなんの為にないているか、知っているかい? ふふん、知らないだろう。賢い僕は知っているぞ、教えてあげよう。そうだな。今回は特別にタダでいいよ。だから有難く思って聞きなさいね。蝉はね、伴侶を探す為にないているんだよ。自分の存在を主張して、たったもう一匹の伴侶を探しているんだ。どうだい、なかなかマロンティックじゃないか。泣かせる話だね。おっと、泣くっていうのはうるうるしちゃうっていう意味だぞ。決して僕がミンミンとかクマクマしちゃうっていう意味じゃないんだからね、そこんところは勘違いしないように。いいかい。目の前の彼は、楽しそうにウインクをしながら、そう言う。

 そんな話を聞いて、僕はゆっくりと目を閉じる。目の前の彼の姿が瞼に隠れて見えなくなる。遮られた視界は黒という色の一色になる。クマクマなくというクマゼミの存在はさて置いて。ああ。そうだ。僕は。僕は、この話を知っている。最初に話してくれたのは誰だったろう。そのことを思い出すことは残念なことに出来なかったけれど、この話が初めてではなくって、そして、前にこれを話してくれた人達のことを、僕はしっかりと、思い出すことが出来る。

『蝉の命ってのは、何度も繰り返すんだってよ』
『蝉の命は繰り返すの。貴方、知っているかしら?』
『知ってるかい? 蝉って、何度も繰り返すんだって』
『蝉は何回生まれ変わっても蝉だってこと、知ってた?』
『ご存知ですか? 蝉の命は、永遠に繰り返し続けるんです』

 それは、まるで。

 僕は閉じた時と同じ速度で、ゆっくりと目を開いた。閉じた時と変わりなく彼の姿はそこにあった。予想の通り、たっぷりと偉そうな態度で腕組みをして笑っている。僕は微笑もうとしてみたけれど、やっぱりどうしても苦笑いになってしまった。けれどもそれは構わない。僕の苦笑いを受けて、目の前の彼の笑みは深くなる。

「ああ――、また、この日が来たんですね」

 せみ。夏の虫。一週間だけ、生をまっとう出来るいのち。

 みーんみんみん。じーわじわじわ。つくつくほーし、かなかなかな。にぃにぃにぃ。みんみんみん。

「そういうことだよ、やっと思い出したかい、坂上君」

 今回のナビゲーターは、風間さん。ただ、それだけのはなしなんだ。






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