*log.再録

*「語り部に管理人の周囲であった話を語ってもらうシリーズ」
*新堂さんに語ってもらいました

*心霊写真と言えば風間さんなので、友情出演をば(…




なあ坂上。お前、心霊写真って見たことあるか?

そりゃ知ってはいるだろうよ。心霊写真。幽霊が写ってる写真のことさ。……んだよ風間、しゃしゃり出てくるんじゃねぇよ。お前の小汚い膝なんか今はどうでもいいんだからよ。まあ、風間の膝が関係する話なんか一生話すこともないだろうけどな。一体どんな状況になったら話すことがあるんだよ。

とにかくだ、心霊写真。
風間だって知っているんだ。お前だって、勿論知ってるだろう? でも、見たことってあるか?

テレビでの特集で? ああ、今は暑くなってきたし、そういう特番も増えてきたよな。お分かりいただけただろうか、っていう奴。俺もたまに見るぜ。
あとはどうだ? なに、コンビニのペーパーブック? お前あんな胡散臭いもん買ってるのかよ……まあ、いいけどよ、お前が何に興味を持って何に金使っていようが。俺には関係ないことだからな。

で、だ。
そういう特集じゃなく、”本物”の心霊写真を、実際に。お前は見たことがあるか?
ない? 本当に?
……そうか、実は、俺はあるんだ。

いや、別に自慢じゃねぇよ、黙ってろよ風間。

……まあ、なんだ。話の腰を折る奴が出てきちまって、アレだけどよ。
俺が話すのは、親戚の家で見せてもらった、とある写真の話だ。

その親戚の家ってのは、おじさんが自衛隊員で、俺と歳の近い子供が1人いた。
そいつと俺は、まあ結構仲が良くてさ。夏休みになると、そいつの家によく遊びに行ったりするんだよ。
もう7年も前のことだ。
その夏も、俺はその親戚の家に泊まりに行って、近くの川で泳いだり虫取りをしたりスイカを喰ったりして遊んでさ。どっぷり日も暮れたし、その日は泊まって行くことになった。
食事を終えてテレビを見ていると、心霊特集を扱う番組になった。まあ、今思い出すとありきたりな怪談話だったんだが、当時の俺はまだ小学生だろ? ほんの少しだけびびっちまってさ。
中でも最後に紹介されていた心霊写真には、はっきりと不気味な顔が映っていて――こういう写真って、本当にあると思うか? そう、俺は親戚に言ったんだ。
すると、同じように横でビビっていたそいつは、

「うちにも心霊写真、あるぜ」

なんて言うじゃないか。そして近くにあった戸棚の引き出しから、茶色い封筒を出したんだ。

「この中に入ってる」

なんてもの出すんだって思ったね。そんなもの持ってたら呪われてしまうんじゃないかという気もしたし、その薄っぺらい茶封筒の中にもさっきの気持ち悪い顔が写りこんでいるとしたら――

でもよ。
そこで怖いから見たくありません、なんて、言えるわけがないだろ?
いくら小学生のガキだったとしても、そんなこと言えるはずがない。

俺は、是非見せてくれと親戚に頼んだ。するとそいつは、ためらうことなく茶封筒から写真を取り出して、テーブルへ置いたのさ。

知らない大人ばかりが映っている、旅館の写真だった。
1枚、2枚、全部できっかり10枚あるその写真は、比べてみると共通点があって、どれも同じ人物が写っていた。
親戚のおじさんだった。
自衛隊員であるおじさんが、同僚たちと旅行に行った写真だ。宴会会場でお酒を飲み、笑い合っている写真たち。
1枚、30人以上の自衛隊員がずらーっと並んでいる集合写真があり、その下には「平成××年×月×日 第××師団××駐屯地 ××班」と印字されていた。写真屋が撮影し、印刷したものらしかった。

「……どいつが幽霊なんだ?」

おじさん以外の顔は知らない。しかし何度見てもどこを見ても、人間以外の顔は存在しないように見えた。

「ほら、これとかこれとか」

人差し指が突きつけられたそこには、白いもやのような丸い何かが映っていた。

「あとここと、ほらこっちにもあるだろ」

それはまるで、

「……これって、レンズについたゴミじゃねぇの?」
「やっぱり、お前もそう思う?」
「いや、だってさ」
「でも写真屋の親父が撮ってるんだぜ? プロの写真だぜ。それにさっきのテレビでもさ、オーブっての? こんな感じだっただろ?」

そういわれると、その写真の信憑性よりも、さっきまであれほど怖かったテレビの心霊写真の胡散臭さの方が強く感じられた。
だって、丸だぜ、丸。ただの白い丸。
そんなのが写真の、人や物、風景のうえに何個かついているだけ。
拍子抜けもいいところだった。確かにそいつが言うように、それはさっきテレビで紹介していたオーブとやらに似ていた。オーブって知ってるか? 霊がいる場所では、そのオーブという白い玉がよく写りこむんだそうだ。魂みたいなものらしい。
でも、実際にそれが本物だとしても、俺たちにはただの丸にしか見えなかった。本物だとしても、その程度のものでしかないんだ。
この写真屋のおっさん全然ダメだな。そう俺たちは笑って、親戚の奴は写真を茶封筒へ入れて、引き出しにしまった。

それからは心霊写真なんて、やっぱり作り物なんじゃないかって思うようになった。
写真部の奴に聞いてみたら、カメラってのはフィルムの巻き取りがうまくいかないことがよくあって、そうすると1枚の写真に2枚分の絵が印刷されてしまうらしい。
1枚目の誰もいない空間に、2枚目の人が映り込んじまうってわけだ。それが心霊写真の謎の顔の正体。
あとはやっぱレンズのゴミだろうな。レンズのゴミがついてりゃ、そのゴミも写真に写ってしまうからな。やっぱあの白い丸も、間抜けな写真屋のおやじがレンズを拭き損ねて映ったゴミの像なんだろうよ。
テレビ局も雑誌も、うまいこと怖い写真を作って、それで視聴率を得ようと必死なんだろう。

……とまあ、テレビで紹介されてる写真や、ほとんどの心霊写真は作り物だって、今はそう思ってるぜ。あの、写真を除いてな。

あ? 小学生の頃に見たそのテレビの写真がそんなに怖かったのかって、違ぇよ。あれこそ作り物に決まってるだろうが。あんなものが本物であってたまるかよ。

俺が言ってるのは、親戚の家で見た写真の方だ。
そう、あの白い丸が映っていた写真。

一昨年の夏、また俺はあの親戚の家を尋ねた。特に約束はしていなかった。
近くに来たからよったんだが、新しい家具を入れるとかで、戸棚の中を整理しているところだった。
別に用があったわけでもなかったからな。俺は下らない話をしながら、一緒に棚の整理を手伝うことにした。

「なんだっけ、これ――あ。おい見ろよこれ、懐かしいものが出てきた」

そう言って親戚の奴が出してきたのは、一枚の茶封筒だった。最初それが何かわからなかったが、写真が出てきたのを見てすぐにわかった。あの心霊写真だって。

「ああ、あの白い丸の奴か」
「そうそう、懐かしいな。これ、あの日からずっといれっぱなしだったよ」
「アルバムにちゃんとしまえよ。おじさんのだろ」
「だな。出てきたから、しまうかな……あれ」

写真をめくる、親戚の手が止まり、また何度も写真をめくっては止まった。どうかしたのかと尋ねる前に、そいつは俺の名前を呼んでこういった。

「なあ、この写真って、どんな写真だったっけ」

どんなって。
自衛隊のおじさんの仲間が集まって、旅館で宴会をしている写真だろう。白い丸が何個か映っていて、それが幽霊だって。

写真が一枚手渡される。おじさんと誰かが肩を組んでいる写真だった。白い丸が散らばっている。

「これがどうしたんだよ。元々こんな、」
「元々、こうだっけ?」
「え?」
「こんなに、あったっけ?」

2枚、3枚と写真が手渡される。宴会会場。畳。浴衣姿のおじさんと同僚たち。白い丸、白い丸、白い丸白い丸白い丸白い白い白白白白、
あまりにも、あまりにも多い、白。

これは、なんだ。
ゴミがついている程度のものじゃなかったか。
その丸い物体は、奥の風景をも隠す程に濃く、写真を塗りつぶしていた。何かをこぼして染みになり、まるで劣化してしまったかのような写真。
しかし指を乗せても写真はぺたぺたと特有の感触を残していて、どんなに擦ってみても、丸は減らなかった。

最後の1枚。集合写真。
なあ、雨の日に車に乗ることってあるだろ?お前助手席に座るか?それとも後部座席? どっちでもいいんだけどよ、ワイパーで水をはじかずに、ガラスが水滴だらけになる様子って、想像出来るか?

まさしく、それだった。
集合写真は、白い丸で、埋め尽くされていた。
隙間などなかった。丸と丸が更に重なり、もうそこには何人の自衛隊員が、軍人が並んでいるかなど数えることは出来なかった。
――おじさんは一番左に立っている。それがわかるのは、そのポジションが集合写真を撮る際の、おじさんの定位置だったからだ。
家族写真の時もそうだったから、俺も、親戚も、それがおじさんだっていうのはすぐわかった。顔が白い丸で覆い隠されていても、映っているのはおじさんのはずだ。

それから、俺はその写真を見ていない。
親戚のあいつは、すぐの茶封筒にしまって、引き出しの一番置くにしまっちまったよ。捨てるわけにもいかないし、かといってアルバムにも入れられないからな。

あとでおじさんに聞いたんだけどよ。
自衛隊ってのは、結構出るんだと。当直中に廊下からぺたぺた足音が聞こえて、眠れないことなんかしょっちゅうあるらしいぜ。
「うるさい!」って怒鳴ったら静かになったって言ってたから、まあ悪い奴ではないんだろう。

戦争で死んだ兵隊が、まだ国を守ってるのかも知れないっておじさんは言ってたぜ。
だから楽しい酒の会に集まって、集合写真を撮りたがったのかもしれないな。
あの写真はまだ引き出しに眠ったままだと思う。もう封筒を開けることはないと思うが――今はどうなっているんだろうな。どのくらいの霊が集まっているのか、想像したくないよな。

見てみたいか?お前が見てみたいっていうなら、借りてきてやってもいいぜ。
まあ、俺の知る唯一の、本物の心霊写真だから、どうなっても保証はしないけどよ。
俺が見た時に隙間がないくらいだろ。今見たら、ただの白い紙になっているかもしれないな。ほら、この部室なんか紙だらけじゃないか。お前が適当にメモしてるその紙も、元は写真だったかも知れないぜ。

……これで、俺の話は終わりだ。それにしても暑いな。コンビニでアイスでも買って帰ろうぜ。

こら、おい待て。誰が奢るって言ったんだよ。喜ぶなよ。おいこら、特に風間!



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