*アパシー
*女王様な恵美ちゃんと下僕な坂上君
*人によっては倉坂注意です
*グロテスクな表現、殺人欲求。また、一部精神衛生上よくない表現を含みます。
どうしよう、どうしよう。
どうしようどうしようどうしようどうしよう。
僕は、僕はおかしい。おかしいんだ。
倉田さんのことを考える。考えると胸の奥が暖かさを帯びながらも、きゅっと痛んだ。苦しい。だめだ、だめ、どきどきする。
最初はそれを恋だと思った。もしかしたら初恋かも知れないと思って、どきどきした。
倉田さんの笑顔が好きだ。
頑張りやさんの倉田さんが好きだ。
倉田さんが僕の名前を呼んでくれるのが好きだ。
彼女と、もっともっと一緒にいたいと思う。
彼女のことを、もっと色々知りたいと思う。
でも、違う。
こんなの、恋じゃない。恋がこんなドス黒くて汚い感情でいいわけがない。
「……くら、た、さん」
ああ、だめだ。だめ。また胸の奥がきゅっとする。苦しい。苦しいよ。それは必ず熱を伴って僕の頭をくらくらとそれしか考えられないよう染め上げていくのだ。他人に感染することのない、僕だけのウイルス。僕の細胞のひとつひとつを染め上げて、きっと最後には、それを実行に移してしまうのだろう。
ぼんやりといつも頭をよぎるのは倉田さんのことだった。彼女の姿が、一挙一動が、脳の中で重要な記憶として位置づけられて、思考回路に染み出て回る。くるくる回る彼女の姿は一種の走馬灯なんじゃないかと思うくらい。そうだ、こんなことを考えている僕なんて、死んでしまえば、いいのに。思い描く彼女の姿はいつだって鮮明で正確だ。はじめて会った時のこと。はじめましての握手の手の感触。温度。握り返す彼女の手の力の強さ。はじめて笑ってくれた時のこと。笑い声、少しだけ高くて愛らしい彼女の声。坂上君、彼女が呼ぶ僕の名前。珍しくもなんともない僕の名字も、彼女の口から出されると途端に素晴らしいものへと姿をかえる。返事、しなくちゃ。倉田さん。倉田さん倉田さんくらたさん。
あ。だめ、だ。
頭の中のいつかの記憶で、倉田さんが僕の方を向いてにっこりと微笑んだ。
――倉田さんを、殺したい。
倉田さんの身体にナイフを突き立てて殺したい。その首をぎゅっと絞めて殺したい。屋上からそっと背中を押したらどんな音を立ててつぶれるんだろう。彼女は僕の方を向くだろうか。それはどんな表情をしているんだろう。
「ダメ、だ。そんなこと、」
口ではそう言いながらも、背筋がぞくりと好奇で震える。
違う、違う。こんなの、違う。
こんなの、恋なんかじゃない。
憧れていた恋は、こんな。
こんな、こんな感情であっていいわけがない。
やめてくれ、と僕は耳を塞ぎ身体を丸めた。脳みその中では僕は倉田さんを駅のホームに突き落としている。ぐしゃり、と潰れる倉田さんの小さな身体。溢れ出た真っ赤な体液とピンク色の内臓に、どうしようもなく僕は口の端を上げる。違う、違う、こんなの、違う、ただの肉塊になってしまう直前。倉田さんは目を見開いて僕を見ていた。なんて可愛い顔をするんだろう。なんで、僕は。そんなことを想像して、切なげに溜息なんか吐いているんだろう。まるで叶わぬ恋をしているみたいに。
狂ってる。僕は、狂ってしまった。ああ、クルって、しまったんだ。