*アパシー

*12月イベントの坂倉
*リクエスト作品。




 穏やかな日常なんてものは、好奇心が原動力になっている女子高生には退屈と名前をつけるしかなくて、退屈と口にすると途端に色あせてつまらないものに成り下がってしまう。あともう少しで2学期が終わろうとしていた。冬休みを待ちに待っているのは勿論なのだけれど、このまま何もないまま2学期が終わってしまうのもなんだか寂しいし、勿体ない。何か事件でも起こらないかしら。そう言うと早苗ちゃんに「ダメよ、恵美ちゃん」なんて言われてしまう。別に私が何か事件を起こそうとなんてしてないし、思ってもないのに。早苗ちゃんったら。そんなこと言うなら、何か考えてやろうかしら。

「もし仮に事件を起こすとしたら、そうね……完全犯罪なのは大前提として、誰にも気づかれないような……」

「すごいわ恵美ちゃん。誰にも気づかれない事件だなんて私想像できない」

 あれ、誰も気づかなかったらそもそも事件じゃないような。そう思いつつも口では早苗ちゃんに「そうでしょ、すっごいのを起こすわよ!」なんて言っている。そもそも完全犯罪の定義ってなにかしら。犯罪者の勝利条件。犯人が自分だと気づかれないこと。逮捕されないこと。法に裁かれる時効まで逃げ切ること。なんらかの犯罪を犯しても、誰かに、探偵に発見されなければそれは事件にはならない。ってことは、「事件を起こす」のなら、誰かに気づいてもらわなけばならないということか。それは自分が犯人とバレるかも知れないというリスクを伴っていて、ゲームと表現することも出来るだろう。

 確かに今、私は事件を求めている。
 けれどそれは、別に事件を起こしたいわけじゃなくって、私の好奇心を満たす出来事を求めているだけなんだ。そう考えると悪いことをして世間や探偵に挑戦するリスクは、どう考えても大きすぎる。

 けれど、
 それなら、探偵役になればいい。

 この退屈な日常の中にどこかに隠れている事件を探し出して、完全犯罪を暴く。探偵の仕事は事件を解決するよりもまず、事件を見つけることなのだから。ただの一般人が日常と呼び気づかないような犯罪を見つけて、犯人を暴き、完全犯罪をひとつでも潰していくのだ。それはとても楽しいことのように思えた。

 ずっと膝に乗せたままだったマフラーをようやく首に巻き終えて、「そろそろ帰りましょ」、と早苗ちゃんが言う。コートを羽織りながらのゆっくりとしたやり取り。大体こうやって、早苗ちゃんと話をしながらのんびりと帰り支度をするのがいつものパターンだ。特に最近は寒くなって来たから、なんとなくすぐには帰りたくなくって、他のみんなが帰っても私と早苗ちゃんはこうして下らない話に花を咲かせているのが常だった。部活がある日はそうもいかないんだけれどね。私は頷いて、手袋をはめながら廊下へ出た。教室よりも暖房のない廊下の方がちょっと寒い。ということは外はこれ以上の寒さなのだから、考えるだけで嫌になってしまう。今からちょっとだけ身構えてしまい、知らず知らずに身体がふるえた。

 窓の外から見える景色は木の葉も残っていない木が寒さを強調するように枝を揺らしていて、土ぼこりで汚れた窓もカタカタとなく。地面が凍るような寒さじゃなければいいのだけれど。つい数日前も、朝地面が凍っていて学校の前で転んでしまったのだった。それをあろう事か日野先輩に見られていて、その日の部活で、みんなのいる前で暴露されて笑われたっけ。うう、一生の不覚だわ。もう絶対同じ轍、同じ氷は踏まないんだから。早く帰って、あったかいココアでも飲みましょう。早苗ちゃんと一緒の時はココアを飲むのがこれまたいつものパターンだ。

 下駄箱に近づくにつれて、足下から這うように冷たい空気が感じられる。しばらく教室で話していたせいか、生徒玄関にいる生徒の数はまばらだった。ばいばいと別れる誰かと誰か。床に靴を投げ置く音。この後遊びに行く予定を話し合う女子生徒の声。昨日みたテレビの内容。ぱたぱたと走って誰かが帰って行く。

 内履きを脱いで、下駄箱を開ける。

 開けて、私は考える。たいしたことではないのかも知れなかった。でも見方を変えれば、或いはこれは、もしかしてきっと、いや、きっと、絶対そう。

 気づかなければ事件にはならない。
 逆を返せば、気づいてさえしまえば、気づいた瞬間に物事は事件となる。
 気づけるか気づけないか、それが問題で、気づける者を人は探偵と呼ぶのだ。

 少し離れた場所で早苗ちゃんはもうブーツに両足を収めていた。
 いつまでも靴を履かない私に、早苗ちゃんが首を傾げている。早苗ちゃん、 


「早苗ちゃん、事件だわ」





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