*荒井さんの話す怖い話
*ばらばら死体がモチーフのお話です。グロテスクな要素を含みます。



 初めまして、僕は二年の……荒井昭二、といいます。

 坂上君、でしたね。まさか貴方がこの集会の聞き役だったとは思いませんでした。ええ、そうです。その節はどうもありがとうございました。おかげで助かりましたよ。しかし世間は狭いものですね。集会前に会って、しかもそれをお互いに覚えているなんてなかなかの確率だとは思いませんか。まあ、僕も坂上君も日野さんという共通の知り合いがいますから、今回に限らず顔を合わせる機会はあったかも知れませんが。ともあれ、これからよろしくお願いします。

 そうですね、坂上君は自分自身の存在を疑問に思ったことがありますか?

 ……質問の意味がよくわかりませんか。
 何故自分は「坂上修一」なのか、何をもってそういえるのか、どうして自分は生きているのか、そもそも生きているとはなんなのか。そういったことを、考えたことはありませんか?
 ない? 本当ですか?

 自分は生まれてきた時から坂上修一、ですか。
 そうですね、考えたことのない人はそう答えるでしょうね。自分が生まれたのは父と母がいたからで、生まれた時から今に至るまで自分は自分だと。けれど坂上君、一度は己の生について、考えてみてもいいと思いますよ。

 何故生きているのか、そもそも何故「自分」なのか。今目の前にある世界が目に見えて音が聞こえて感じられて、それを認識する自分があるのは何故なのか。何故見えるのか、何故聞こえるのか、思考や記憶はどこにあるのか――目がついているから、耳がついているから、なんてつまらないことを言ってはいけませんよ。それは器官にしかすぎないんですから。

 まあ、今まで考えることがなかったということは、自分の存在に疑問を持たずに幸せに暮らしていたという証拠ですよね。悪いことではないと思いますよ。あまり考えると頭がどうにかなってしまいそうになるというのも、事実ですしね。最近は物騒な世の中ですから。幸福に暮らせているのなら、人によってはそれで十分なのかも知れません。少し前もこの近くで殺人事件が起こったばかりですし、え、あの事件、犯人が捕まったんですか? 今日? 流石新聞部員さんは情報が早いですね。これで学校近辺の安全も多少は信頼できる程度になるでしょう。安全なんて、信頼しないにこしたことはないと思いますけどね。

 安心も安全も、自分の存在と同じく疑問に持ってかかるべきものです。

 僕が話すのは、自分自身の存在に悩むある男子生徒の話です。






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