大晦日は豊臣家、その家臣にその家族と、大人数の大宴会が行われる。

城内はその準備に追われていた。

そして俺も部下に指示を出していた。


「清正、お前変わったよなあ」


部下がその場を去った直後、正則が来る。


「準備はどうした」

「休憩だ休憩。にしても、前のお前なら今の、
"あれやっとけそれぐらいわかるだろ"とかいうのに今の"頼んだぞ"とか言っちゃってさー」


今までの部下への接し方を思い出す。

"頼んだ"ぐらいは今までも言ってたと思うが、俺はそこまできつかったのか?


「清正ったら、すっかり優しくなったよなあ」


肩を揺らして笑う正則。

言いたいことはわかるが、俺自身まったくその変化にわからん。


「そうか」

「そうそう。それもあれだよな、」


「そういやあ大晦日の宴は真奈美殿は来られるのだろうか」


耳に届いた名前に、思わずその声の主を見る。

自分から少し離れたとこに、そいつは立っていた。

どうしてあそこの奴は真奈美の名を出すんだ。


「あー、でも清正?そーいうとこも変わった・・・いや変わってねえか?
 って、んな怖え顔向けんなって!」

「何がだ」


しかめっ面になった顔を戻す。


「他の奴らが真奈美のこと話してたら鬼の形相すること」


正則の言葉に眉間に皺を寄せる。


「どうしてそんな顔にならなきゃいけないんだ」

「マジ?気付いてねーの?つかまた無自覚かよ。相手がおねね様じゃなくてもなんのかお前・・・」


正則の言いたいことがまったくわからん。

どうしておねね様の名前も挙がるんだ。


「何をしている」


不機嫌な顔をした三成が来た。

そこで話は中断した。

俺は城内での仕事以外に、真奈美を迎えに行く用があったので、そっちに行った。

"気付いていない"?"鬼の形相"?

相変わらず正則はおかしなことを言うな。


「真奈美」


いつものように家の中に向かって呼びかける。


「いらっしゃい!待ってました!!」


家の中から真奈美が出てくる。

襟巻をしていた。

積もった雪を踏んでこちらに歩いてくる。

今日は例年に比べ、よく雪が積もっていた。


「暖かい格好してきたか?」

「それなりに―――うわっ」

「あっ、馬鹿!!」


雪に足を取られ、前に倒れこんでくる真奈美に、腕を伸ばす。

手や腕をつかむことは今までに何回かあった。

けどそれは数えるほどだし、特別意識することもなかった。

女の体に触れるだなんて、おねね様以外あまりなかった。

抱き留めた真奈美の体は、思ってた以上に小さくて、細かった。


「ああ、ごめんごめん」


眉尻を下げて笑い、真奈美は俺から離れる。


「あ、・・・ああ、気を付けろ、馬鹿」


思考が鈍くなった。

それから城に着いて、正則に会うまでの記憶が曖昧だった。


「清正ぁ、どうしたってよ。ボーっとしちゃってよ」


何か思うところがあるはずなんだが、それが言葉にならない。

真奈美は秀吉様のところに行ったみたいだ。


「もしかして、真奈美と何かあったのか〜?」


正則はニヤニヤと笑う。

その反応にイラッと来たが、流しとく。

なぜまたあいつの名が、と思ったが、心は動揺していた。

頭を振って、思考を戻す。


「お前、最近やたらとあいつの名を出すが、なんだっていうんだ?」

「・・・お前のそーいうとこ、逆に尊敬もんだよ」


正則はわかっていて、俺はわからない。

頭を動かしても、短い時間じゃ結論は出なかった。

だーかーら、と正則は声を上げる。


「真奈美のことが好きなんだろぉ!!?」


水を打ったように、とはこのことか。

"真奈美が"、"好き"?

頭が真っ白になった。

心臓の辺りでもやもやと渦巻き始める。

しかし、頭の中で、カチッと何かが嵌まる。

ああそうか、そういうことか。


「この忙しいときに、随分と呑気なことだな」


あからさまに苛立ちを出す三成が数歩離れたところに立つ。


「うっせえ頭デカッチ!!お前に言われなくてもやるとこだっての!!」


正則は騒々しく足音を立て、その場を離れる。

あー、てことはなんだ、正則にもわかるほど俺はわかりやすいってことか?

頭を抱えたくなった。

視線が刺さると思い、三成の方を見る。


「なんだ」

「あいつに気付かされるとは、お前も相当の馬鹿だな。お前のそのくだらん感情は、一目見ればわかる」


三成は苛立ちを俺にぶつけて、去っていった。

・・・おい、いや、待て、まさか、今のは・・・




まさか知らぬは俺とお前