城内の紅葉もずいぶんと深まってきた頃。

秀吉様に呼び出され、城を尋ねていた。

大した用はなく、俺の顔が見たかったとのことだ。

ったく、あの人は・・・

嬉しいものの、少し恥ずかしい。

昔に比べ会う機会が減っている。

それは当然のことだが、子供扱いをされても困る。


先の角から誰かが歩いてくる音がする。

角から出てきたのは、自分の知っている人物だった。


「真奈美」


心臓が、速く動き始めた。


「わお、グッタイミング」


ぐった、は?

聞き慣れない言葉に首を傾げた。

しかし当の人物はお構いなしという具合で話を進める。


「清正君に、お弁当をお届けダヨー」


ほれ、と風呂敷に包まれたものを渡される。

よく見る、おねね様仕様のものだ。


「ここここれをどうしてお前が・・・!?」

「動揺しすぎだろ。いや、渡してくるように、って言われたから」


久しぶりのおねね様のお弁当。

頭の中でおねね様の声が響く。


「ありが、さ、さすがだ!ありがとう!!」

「あ?あー、いや、別に」

「そうだ。お前も一緒に食べないか?どうせ暇だろ」

「えっ」


なぜか真奈美は口元を引きつかせる。なんだ?


「用があるのか?」

「え、いや、なんもないけど」

「じゃあ行こう」

「あー・・・―――いや、うん、行こう」


折角この時期だし、と真奈美は外に出て紅葉を見ようと言う。

時間もあるし、馬に乗ってあるところの森まで来た。

適当に場所を探し、弁当を広げる。

うまそう。

相変わらずおいしそうだ。

一口食べる。


「っうまい・・・!」

「泣く程うまいか」

「さすがおねね様だ。・・・だがいつもと味付けが違うな。趣向を変えたのか」

「・・・そうでない?久しぶりのお前のために。・・・水汲んでくるわ」


・・・?突然だな。

真奈美の言動に違和感を感じたが、その原因がわからないので


「ああ、頼む」


思考に集中できるよう、とりあえず頼んだ。


真奈美は立ち上がって、少し先にある川に行った。


「こら!清正ダメじゃない!!」

「んぐっ」


咽た。

木の上からおねね様が下りてきた。


「おねっ、んっ、げほっげほっ」


あ、危な、危うく死ぬとこだった。

いや、おねね様の料理で死ぬなんて本望か・・・てそうじゃない!


「どうして、おねね様がここに・・・!?」

「心配だと思って来てみれば・・・清正、そのお弁当はね、真奈美が作ったんだよ!!」


真奈美が?数回瞬きをする。

先の疑問の答えはこれか。

おねね様の言うことだし、嘘ではない。

先程自分が言ったことを思い出す。

嫌な汗と緊張が出てくる。


「いいかい?真奈美が戻ってきたらちゃんと謝るんだよ?いいね!!」


おねね様はそう言うとまた木の上に戻った。

心臓が、速く動き始める。


「どうした、そんな呆然として・・・水いる?」

「貰う」


戻ってきた真奈美から水を受け取り、喉を潤す。

真奈美は俺の横に座った。

言い出しづらい、が、言わないとこいつに悪い。


「この弁当、お前が作ったのか?」

「どうした、そう思う?」


否定しない。

てことは・・・そうなんだろうな。

大きくため息を吐く。


「まあ風の噂だ。それと・・・悪い。お前の、おいしいよ」

「いいよ別に。おいしいってさっき言ってくれたし」


そう言って真奈美は笑う。

納得がいかない。


「いや、それはおねね様が作ったから、てこともあるかもしれないだろ」

「おねね様の料理食べてるんだから味覚は変じゃないだろ?
 まずいものはまずいって言える奴だろ、お前は」


へらへらっと笑う真奈美に顔が熱くなりそうになる。

頭を横に振って、心を落ち着かせる。


「というか、お前も言えよ、自分が作ったって」

「まずいって言ったら言うつもりだった」

「お前の料理をまずいと思うわけないだろ」

「そりゃどーも」


最近、着実にこいつに敵わなくなってる気がする。

なんなんだろうな・・・


「てかお前、おねね様に母親以上のものを求めてたりしないよな?」

「そんなわけないだろ」

「でも忍術っていう素養は欲しいんだろ?女性に」

「あったらいいなってだけだ。お前は持ってないだろ」


・・・ん?

どうして今真奈美の名前を出した?


「そらそーだろ」


無意識だった。

俺は今、何を思ったんだ?




散々で不安定で