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止まらずに進め!
燐「首輪がほしいんです。」
ゆきの「…首輪…ネックレスでいいですか?」
燐「そうですそうです。ネックレス。」
燐[思わず思っていることを口走ってしまって少しあせる。店長さんの目が痛い。
普通に考えてネックレスかペンダントだろう。何で首輪っていったんだよおれ…]
ゆきの「どんな感じのものがいいんですか?せんせ。」
燐「あまりシルバーアクセサリは見ないんです。」
ゆきの「あら意外。どなたにあげるのですか?」
燐「恋人に。誕生日プレゼントなんです」
ゆきの「あら素敵。わたしはてっきり…」
燐[そこで口をつぐまれても困る。なんだよ、俺に恋人がいるのが意外なのか。
悪かったな、だが意外ともてるぞ。自分の容姿にはそれなりに自信があるんだ。
きれいに並ぶシルバーを見ながら、店長さんに目をやると、なぜかニヤニヤしているし。]
ゆきの「私は、てっきり十織くんにあげるんだと思っていました」
燐「…はい?え?」
ゆきの「歩くんが、今さっきそういっていたので。」
燐「あー…えっと…ですね…」
燐[さぁ、どうやって弁解しようか。
「恋人です」といったら、この店長さんから十織に話が回ったときに厄介だ。十織になんて言われるかわからない。
下手をしたら数日無視は覚悟だろう。
だけど、「十織です」と言ったらこの前にいる店長さんはどう思うだろうか…あ、べつにどう思われてもいいか。五月七日の親族だろ。]
燐「十織です」
十織「なに?呼んだ?」
燐「…は?え、何でここに」
ゆきの「あら?十織くん、今日シフト夜のはずよ?」
十織「燈馬に呼び出しされました。部活帰りに来いって」
燐「丁度いい、今お前の首輪を選んでたところだ。どれがいい、特別選ばせてやる」
十織「えー…普通それ…えー…!」
燐「ほら、さっさと選べ」
十織「俺、ペンダントはしない派なんだけど」
燐「知らん、さっさとしろ」
十織「うっわぁ…」
燐[こいつを前にすると、トントンと言葉が出てくるから面白い。素の自分でいられる。すごく落ち着くんだよな。
目の前のショーディスプレイをじっと見ている十織が何を考えているかはわからない。無表情なこいつだが、微細な表情の変化が面白い。
いつも違った変化を見せるから、楽しくて仕方ない。
そんなことをおもっていたら、後ろからぼそっとなにか聞こえた。]
燐「…今、なにかいいました?」
ゆきの「いいえ?特になにも?」
燐「そうですか…空耳か」
ゆきの「あ、『俺様攻めキタッ』とは言いました」
燐「思いっきり言ってるじゃないですか」
ゆきの「あら、このことだったんですか」
燐「ほかになにがあるんですか、うわ、聞かなきゃよかった」
ゆきの「やり過ごそうとしたのに『空耳か』なんてフラグ立てるから…」
燐「明らかに俺のせいじゃないでしょう、人のせいにしない!」
十織「あ、これ」
燐「よし、それな。首輪なんだから外すなよ」
十織「え、ちょ、ちょっとまって、え、意味わかんない」
燐「店長さん、これひとつ」
ゆきの「まいど」
十織「え、なぁ人の話聞いてる?」
燐「この店を…というかあの人の視線がなくなったら聞いてやる」
燐「止まらないで進め!」
十織「むしろそのままこけてください」
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