|
苦いあじのその先に感じるもの
叶「…でなっ、でなっ!?」
十「あのさ、カナ、ちょっといい?」
叶「ん?どうした?」
十「帆坂がにらんでる。主に俺を。」
叶「…またかよ、なんなんだ…」
十「え?いや、仕方ないでしょ。というか、帆坂に同情。」
叶「え、意味ワカンネ。って、十織どこ行くんだよ」
十「いきたくないけど、燐のところ。」
叶「…おう、がんばれ」
叶[立ち上がる十織に視線を合わせ、追うように顔を動かすと、十織が翔の隣で止まった。
視線を交わらすこともなく、翔の隣に十織がいた時間正味五秒。そのうち俺と翔はずっと見合っていた状態だった。
互いが目を逸らさずに、ただただ見ているって、変な感じだ。おまけに、なにか言いたそうな目をしている。
そんなことを思っていたら、視線を逸らすことなく、俺の方にきやがったし…。]
翔「もうすこしさ、俺に構ってよ、塀国。」
叶「お前に構うとろくなことがないだろう」
翔「ひっどいなぁ」
叶「事実だろうが、ばーか。」
翔「はいはい、ばかですよー。今日の放課後ひま?遊びにいこうよ」
叶「…放課後…どうだろうなぁ…今言ったように、お前にかかわるとろくなことがない、それに…」
叶(あー…補修か…どうしよう、さぼろうかな。)
翔「それに?あ、忙しかったら別にいいよ?…寂しいけど」
叶「いいよ、おまえのためなら時間空けてやる。」
翔「…そういうことさー、さらっといっちゃうんだぁ…本当にさぁ…つけあがるよ、俺」
叶「いいんじゃねーの?つけあがってもさ。俺は大歓迎、どんとこいよ」
叶[ふいっと視線を逸らす翔に、追い討ちをかけてやる意味合いで言ったんだが、意外と効いたな。効果覿面。]
叶「あんまりかわいい反応すんなよ、てめぇ下克上すっぞ。」
翔「それだけは勘弁。かわいくねーよ」
叶「かわいいの観点は人それぞれらしいぜ?なぁ、帆坂くん」
翔「何倍にもなって返ってくるっていうね…口では勝てないなぁ…」
叶「勝とうとしてたのか、かわいそうに。」
翔「え、それどういう意味?かわいそうにってどういう意味!?」
叶[改めて翔のルックスをなめるようにみる。相当のイケメン君。あーかわいそう。]
翔「そんなに見られると恥ずかしいよ塀国くん。」
叶「いやーかわいそうだなぁって。」
翔「だから、どういう意味!?」
叶「こーんなイケメン君なのに…」
翔「…だーかーらぁ…つけあがるよ、俺」
叶「だーかーらぁ…別にいいって」
叶[つけあがって、どんどん溺れればいい。
溺れて浮かび上がれなくなってしまえばいいじゃん。
って、思う時点で、俺も溺れてる。
一番大事だった「平凡でいること」を捨てさせられて、納得してしまうくらいには、もう溺れてるんだ。]
翔「あーあぁ、もう、責任とってよ叶琉」
叶「堕ちていったのは自分だろうが、それと、抜け出したいのか?」
翔「絶対に無理だから。」
叶[苦い味のその先に感じるもの]
翔「すべてが甘すぎて、抜け出せない。」
|
|