「…てっきり、駅で待ってるものだと思ってたんですけどね…」

 ザッ、ザッ、ザッ。一歩一歩、土を蹴りつけるように前を歩く神田の背から不穏な空気が流れる。
 ……彼も同じように考えていたに違いなかった。

 少なくとも、合流するはずのエクソシストを捜す羽目になるとは思っていなかったことだろう。
 駅から本部に連絡をとったが、昨日現地に到着したという連絡は受けているらしい。とりあえず駅からしばらく歩いた場所にあるという、湖を目指すことになった。

 月明かりだけを頼りに、鬱蒼とした茂みに入るのは危険だと判断し、道なりの迂回ルートをとっている。
 アレンはティムキャンピーが頭上でパタパタ円を描いて飛ぶのを見て、ずっと言いたかったのだが言えずにいたことを、ついぽろっと零してしまった。

「…キミのゴーレムで、通信とかできないんですか?」
「出来たらやってるッ!繋がんねーんだよあの野郎はッ!」

 今にも抜刀しそうな剣幕だったので、アレンは少し距離を広げながら心の中だけで(チッ、使えませんね…)と毒づく。
 持ち主達の心情を表すように、ゴーレム同士で睨み合いを始めたティムを眺めつつ、周囲に気を配る。

(どこに居るのかなぁ……そもそも、人の気配がしないけど)

 駅近くの平野には民家もあったが、道なりの緑が深くなるごとに数は減り、今はただ木が生い茂るばかりだ。湖の周りには、小さな集落はあるらしいが。

(夜も深いし、出歩いてるわけないか……)

 熊も出そうな雰囲気だし。
 左右どちらを見ても木しかない為、見上げるくらいしか気を紛らわす手段はない。

 ……星も見えない、薄曇りという残念な空だったけれど。

「…はーぁ…」
「…オイ、気ィ抜いてんじゃねぇぞ」
「そんなこと言ったって……静かじゃないですか、ここに来るまでアクマの目撃情報もなかったし」

 到着して直ぐにでも乱戦になるのかと思っていたから、むしろ拍子抜けだった。アレンは欠伸を噛み殺しながら、そういえばこの数日まともに睡眠をとってないことを思い出す。
 神田はベッドで横になってたから、十分睡眠とれてるでしょうけど……

 アレンは前を行く背中をじとっと睨め付ける。
 ようやくしゃべったかと思えば、神田はまた黙り込んでしまったので静寂が訪れる。

 さわさわ、葉が風に揺れる音が聴こえ……唯一の光源が、影を落とし始める。

 月が雲に隠れて、闇が増した。
 自分が纏っているコートすら視認出来なくなる程、夜闇が深まる。


 その瞬間を、待っていたように。


 ―――ぞわり、と。全身の毛が逆立つような、気配が。


(…!?殺気…!!)

 アレンは殆ど条件反射で跳んだ――元居た場所に飛来した何かが激突した。夜闇に視力を奪われ、当てにならない。

(…しまっ…神田、は…!?)

 思考が臨戦態勢に切り替わった瞬間に、続けて風を切る音がする。
 とっさに目を庇うと砂塵が舞い、周囲の土が抉れる。木が倒れる音が響くが、特有の爆発も熱気も感じない。

(アクマの砲弾…じゃ、ないッ!?)

 何が飛んで来ているのかさえ、見えない。何に襲われているのか解らず、アレンが発動を迷う間に、別の光が煌めいた。神田が背中の対アクマ武器を引き抜いたのだ。

「下がってろ――!!」
「かんっ…!」

 言い終わる前に、更に強い衝撃が叩きつけられ、彼が視界から消える。
 質量を持った黒い塊が直撃した、らしい。目を凝らしても暗闇に紛れて判別できない――立て続けに、刃がぶつかり合う金属音が響いた。

(――速い――!)

 アレンは身構えたが、攻防の素早さと相俟って、この暗さでは神田を援護しようにも彼まで攻撃してしまう。
 漸く目が暗さに慣れつつはあったが……黒い何かだとまでは判別できるが、まるでモヤがかかったようによく見えない。

 アレンの眼には内蔵した魂を捉えていない。だからアクマではないはずなのに、襲ってくるということは、敵――?












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