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一度ッキリの告白


 今まで生きてきた中で一番びっくりする出来事だった。それはもう、声が出なくなるぐらい。これがドッキリ企画だったら、プロデューサーに拍手喝采……は、したらアカンな。ドッキリにしてはタチが悪すぎる。ピュアを絵に描いたような俺を嘘の告白で驚かそうなんて、さすがにひどい。誰やねん、こんな企画考えたの!
 いや、違う。あれはドッキリ企画のための嘘じゃなくて、本気だった……と思う。あまりにも驚きすぎていまだに整理できていないが、夢でもドッキリ企画でもなく、俺は数時間前に告白されたのだ。しかも、前からちょっと気になっていた女の子に。

「イコさん、今日ぼーっとしすぎちゃいます?」
「せやなあ。イコさん、何かあったんっすか?」
「……アカン」
「何がアカンの?」
「変な物食べたとか?」

 我らが生駒隊の作戦室。何か話しかけられたような気もするが、俺は完全に上の空だった。明後日に控えたB級ランク戦に向けて作戦会議をしようという名目で集まったのに、ちっとも話が進まない。
 とは言ったものの、もともと作戦会議で真面目に話し合いをするような隊ではないので、そこらへんは問題なし。マリオちゃんが「結局作戦どーすんの!?」と言い出すまでは雑談タイムというのが常である。
 いつもなら俺も隊長として積極的に雑談タイムで発言をするのだが、今日は雑談を楽しむ余裕などなかった。それを不審に思ったらしい隠岐と水上、俺の呟きに首を傾げるマリオちゃん、そして適当なことを言う海の視線が、今は全て俺に注がれている。

「告白された」
「へぇー。どんな子なんですか? 可愛いですか? 写真あります?」
「隠岐、めっちゃ普通に訊くやん」
「おれも気になる〜!」
「可愛い。写真ないどころかちゃんと話したこともないけど、可愛い。それだけは間違いない」
「ちゃんと話したこともないのに告白されたん?」
「せやねん……やっぱりドッキリなんかな……」
「ちゃんと話したこともないような相手にドッキリはせんのとちゃいます?」

 隠岐の言う通り、仲良くもない異性にドッキリで告白なんてハードルが高いことは、普通しないだろう。それに、あの子は人の心を弄ぶようなタイプじゃない。全然性格とか知らんけど。ほんまに挨拶ぐらいしかしたことないけど。たぶん、いや、絶対、人が傷付くようなことはしないタイプだ。そういうオーラを放っている。俺には分かる。
 同じ大学には通っているが、学部は違う。だから、会う機会はほとんどない。しかし、数ヶ月前に受講した全学部共通の選択科目で、俺はたまたまその子と出会った。
 選択科目ではあるが、全学部共通となれば人気の講義では席があまり空いておらず、全く知らない子の隣になることもそれなりにある。俺はその日、たまたまその子の隣に座った。それがきっと、運命の出会いだったのだ。
 ただ聞くだけ、板書を書き写すだけの退屈な講義。しかも友だちと一緒じゃない時に限って、俺は消しゴムを忘れてしまった。一番端っこの席に座っているから、隣はその子しかいない。本来なら見ず知らずの女の子に声をかけるなんてことはできないが、その時ばかりは仕方がなかった。

「あのー、すんません」
「はい?」
「消しゴム貸してくれませんか? 忘れてしもたんです」
「あ、どうぞ」
「ありがとうございます」

 小声でボソボソとそれだけ会話した。その時チラリと見た顔がめちゃくちゃ可愛くて、途端に緊張しまくって借りた消しゴムを落としたりシャーペンの芯を何度も折ったりしたから、もしかしなくても不審に思われただろう。
 しかし俺は情けないことに「ありがとうございました」とお礼を言うだけで精一杯で、何も取り繕うことができなかったどころか、名前も学部も訊くことができなかったのである。
 そんな相手から、数ヶ月越しに告白をされたのだ。あれから、同じ講義を受講することはあっても席が隣になることはなかったし、擦れ違う時に「どうもー」とわけの分からない挨拶をする程度しか交流がなかったというのに、何度も言うが、俺は告白されたのである。こうして振り返ってみれば、やっぱりドッキリ企画の線の方が濃厚ではないだろうか。
 ……え。まさかほんまにドッキリなん? そんなんめっちゃヘコむやん。

「悩んどってもしゃーないですし、直接会って確認してみたらええやないですか」
「隠岐はイケメンやから簡単げにそんなこと言えるけどな、俺の顔見てみ? これやで?」
「イコさんいうほどブサイクやないですよ」
「そうそう。普通ですよ。普通。気にしすぎなんですって」
「あんまりフォローになってないで、二人とも」

 隠岐と水上に的確なツッコミを入れるマリオちゃんはいつものことながら鋭い。しかし、そうか。普通か。普通ならいけるんちゃう?
 何がどういけるのかは分からないが、隊員たちに勇気をもらった俺は、思い切ってその子に連絡をした。告白された時に渡された連絡先。何度も間違いないか確認してメッセージを送ったら、翌日、二限目が終わってから会うことになった。
 ヤバイ。もともと会って話をするつもりだったくせに、緊張がハンパない。お陰で睡眠不足だし、午前中の講義の記憶はほとんどなかった。板書をするのも忘れていたから、今度嵐山に頼んで写させてもらおう。
 昼時は学生たちが食堂に集まるため、講義室は誰もいないことが多い。指定された講義室に行けば、そこにはあの可愛い子が待っていた。しかも俺が来たことに気付いて頬を赤く染めているというオプション付き。しつこいが、これはヤバイ。アカン。どうしよ。

「連絡くれてありがとうございました」
「いや、こっちこそ! 返事ありがとうございました」
「それから、あの、今更なんですけど、急に告白とかしちゃってごめんなさい……困りますよね」
「全然! ほんまにぜんっぜん困るとかはないんですけど! むしろめちゃくちゃ嬉しかったんですけど、嬉しすぎてドッキリかと思てました」

 どうにか挙動不審にならぬよう、失礼のないよう、変なところを見せぬよう努力しようと思っていたが、無理だった。緊張のあまり、俺は思っていたことを包み隠さず伝えてしまったのである。
 ドッキリかと思てました、って。告白してくれた本人に直接言ったら嫌な思いをするかもしれないじゃないか。なんて焦ったところで、後の祭りだ。
 どうしたらええんやろ。いや、もうどうにもならんのは分かっとるけど。心の中でめちゃくちゃ焦っていると、可愛いその子は、ふふふ、と笑い始めた。え。やば。めっちゃ可愛い。
 何に笑っているのかは分からないが、とりあえず気分を害している雰囲気はないので、ほっと胸を撫で下ろす。そして俺は、その子をひたすら見つめていた。理由は簡単。その子の笑顔がとんでもなく可愛くて、目を離すのが勿体なかったからだ。
 俺の視線に気付いたのだろう。今の今までクスクス笑い続けていたその子は、恥ずかしそうに咳払いをして「ごめんなさい」と謝ってきた。謝られるようなことは何一つされていないというのに、俺は先ほどから謝られてばかりである。

「急に笑っちゃって、失礼しました」
「どんどん笑ってください。めっちゃ可愛いんで」
「え」
「え」
「……そういうこと言われると変な期待しちゃいますよ?」

 照れているのか、ふいっと顔を俯かせる仕草もまた可愛くて、たぶんその子の言動なら何でも可愛く見えてしまうのだろうと思ったが、実際可愛いのだから仕方がない。思う存分、期待してほしい。というか、期待ではなく確信に変えてほしい。
 ランク戦でもこんなに真剣な顔をしたことはない、というぐらい、自分史上最も真剣な表情を作る。そこで初めて、俺はその子の名前を呼んだ。「みょうじさん」と。可愛いその子の名前。みょうじなまえさん。告白された時に教えてもらったのだが、名前まで可愛いとは何事だ。

「あの、返事なんですけど」
「はい……」
「俺で良かったら、宜しくお願いします」
「ほんとですか!? ほんとのほんとに? それこそドッキリじゃないですよね?」
「大真面目です」
「どうしよう……嬉しすぎて飛びつきたいぐらいです」
「えっ、あ、ちょっと待ってもらってええですか! ニオイとか汗とか色々アカン気がするんで、」
「そんなのお互い様ですよ」
「は」

 直後、胸元にきた可愛い顔と、腰に控えめに回された腕の力に意識が飛びかけた。これやっぱドッキリか夢ちゃうかな。現実だとしたら神様サービスしすぎやろ。幸せの配分間違えとるやん絶対。帰り道、気を付けんと冗談抜きで死ぬかもしれん。

「生駒達人くん」
「はい」
「これから宜しくお願いします」
「はい」
「敬語、やめてもいいですか」
「どうぞ」
「生駒くんもやめてね」
「はい」
「……今度の講義、隣に座ってもいい?」
「今度の講義まで生きとったら勿論」
「死ぬ可能性があるの……?」
「今一生分の幸せ使い切っとるとこやから、不幸に見舞われたらあり得るんちゃうかなって」
「ふふ、面白いなあ」

 はにかむみょうじさんに飽きもせずまた見惚れて、これからこんな可愛い子と付き合うなんて罰が当たるんじゃないかという謎の心配をし始める。が、みょうじさんとそういう関係になれるならどんな罰でも受けてやろうという気持ちに切り替えた。
 さて、とりあえず明日のランク戦は絶好調で臨むことができそうだ。





▼斎藤さんへ
 この度はリクエストありがとうございました。イコさんのキャラも口調もかなり手探りで書いたのでただの関西弁を喋るイコさんもどきになっているかもしれません。ごめんなさい。でも努力はちょっとだけ認めてほしいです……
 イコさんに一目惚れしちゃった女の子が頑張って迫る感じで書き進めているつもりだったんですけど、読み返してみればただイコさんが動揺しまくっているだけの可愛いお話になっていました。生駒隊が出しゃばりすぎたのも反省しています。でも私は書いていて楽しかったですありがとうございます(?)
 今後の展開はご想像にお任せしますが、私には清く正しい交際を経て末長くお幸せになる未来が視えています。迅悠一がそう言っていました。どうぞお幸せに!