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気のせいじゃなくてキミのせい


 最近、クラスの皆の様子がおかしい。具体的にどこがどうおかしいのかというのは説明し難いのだけれど、兎に角おかしいことは間違いない。
 例えば、授業で二人一組になれ、と言われた時、私はなぜか皆に避けられるようになった。嫌われているわけではないと思うのだけれど、あの優しいデクくんや口田くん、障子くんや尾白くんあたりも、私とペアになってくれないのだ。そして残っているのは常に爆豪だから、必然的に爆豪とペアを組むことになる、というのが最近の流れ。こんなことが二週間は続いていると思う。
 昼休憩も、昼ご飯を一緒に食べようと色んな人に声をかけるのだけれど、なんだかんだで最終的に爆豪のグループと一緒に食べることになる。これもこの二週間ずっとだ。
 極め付けは、寮での食事の席。席が決まっているわけではないので毎回好きなところに座れば良いのだけれど、私はこれもまた爆豪の隣、もしくは正面の席に追いやられるのだ。

 おわかりいただけただろうか。気のせいなんかじゃない。気のせいで片付けられたら困る。
 ここまで来たらさすがにわかるだろう。クラスの皆は、どういうわけか、私と爆豪をワンセットにしたい病気を罹っているようなのである。これが誰かの“個性”によるものだとしたら対処の仕方も考えられるのだけれど、生憎そういうわけではなさそうだから、逆にどうすることもできなくて困っているというのが現状。
 ちなみに私と無理矢理ワンセットにさせられてばかりの爆豪はというと、意外にも今のところ怒ったりイライラしている様子はなく、それなりに平和な毎日を送ることができている。
 周りの露骨すぎる妙な動きに、賢い爆豪が気付いていないとは思えない。となれば、気付いていて現状を容認しているということになるのだけれど、爆豪はこのままで良いと思っているのだろうか。私はとても過ごしにくいというか、居た堪れないのだけれど。

「ねぇ、どうして最近私と爆豪をセットにしようとするの?」
「えっ」
「そそそそんなことないよ!」
「気のせいじゃない?」
「絶対気のせいじゃないから。理由ぐらい教えてくれたって良いじゃん!」

 堪忍袋の緒が切れた、とまではいかないにしろ、ずっともやもやした気持ちで過ごしてきた私は、就寝前に談話中の女子たちに尋ねてみることにした。すると、どう考えても挙動不審な反応をされた挙句、気のせいで片付けようとされたではないか。こんなのあんまりだ。
 この二週間、そういう遊びなのだろう(だとしてもちょっとタチが悪いけれど)、飽きたら普通の日常に戻るはずだと信じて目を瞑ってきた。しかし、どうもこのままの様子が続きそうだという気配を察知して尋ねてみればこの反応。一体私が何をしたというのだ。
 むむ、と皆を睨み付けて「本気で怒ってるぞ」とアピールする。すると梅雨ちゃんが「だから最初にちゃんと話した方が良いって言ったでしょう」と呟くように言った後「ごめんなさい」と謝ってきた。やっぱり、何かしらの理由があってのことだったらしい。
 梅雨ちゃんが謝ってきたのを機に、他の皆も「ごめんね」と謝ってくる。皆のことだから、意味不明な理由であんなことを強行したりはしなかったと思う。つまり、それなりの理由があったのだとは思うけれど、その理由って?

「なまえちゃん、爆豪くんのことどう思う?」
「へ?」
「好きか嫌いかで言ったら?」
「え、なに急に、なんで爆豪?」
「すっごく大事なことなの!」

 お茶子ちゃん、三奈ちゃん、透ちゃんに詰め寄られ、助けを求めるように他の子に視線を向けてみたけれど、梅雨ちゃんも響香もヤオモモも、助けてくれそうにない。むしろ私の返答を待っているようにすら見える。

 爆豪のことをどう思うか、って、そんなの皆と大体同じだと思う。ヒーロー向きの“個性”を持っていて、それを十分活かし切れるだけの力量と頭脳を持ち合わせた才能マン。最初はちょっと近寄り難かったけれど、だんだんそんな風に思うこともなくなってきた。もう少し愛想ってものを学んだ方が良いとは思うけれど、それも含めて爆豪なんだろうなあとも思う。
 好きか嫌いか、なんて考えたことがなかった。ただ、もし爆豪のことが嫌いだったら、この二週間はもっともっと地獄のような日々だっただろう。しかし振り返ってみれば、爆豪といる時間が長くなったことで苦痛を感じることはなかったような気がする。
 じゃあ好きってこと? ……いや、まって、好きって何。それはまた違うんじゃないの? 好きって、友だちとしてってことであって、別に深い意味はないんだけど、でも、言葉にしようとすると妙に意識してしまう。
 そもそもどうして私はこんなに爆豪のことを考えなければならないのだろう。大切なことだと言われても、全く意図がわからない。

「嫌いではない、けど……」
「けど?」
「……ていうか! なんでこんなに爆豪のこと考えなくちゃいけないの!」
「なまえちゃん、気付いてないのね」
「何に?」
「それは私たちの口からは言えませんわ」
「じゃあ誰の口からなら聞けるの?」

 私の問い掛けに、皆揃って口籠った。私が何に気付いていないっていうの? 爆豪に関することだというのは確かだけれど、それ以外の情報が何もない。ということは、

「爆豪に訊けってこと?」

 無言は肯定である。つまり私は自分が何に気付けていないのか、爆豪に確認しなければならないらしい。本当に意味がわからない展開だ。
 今日はもう夜遅いからと、それからすぐに自室へと戻ることになったけれど、私の頭の中はちっとも整理できぬまま。お陰で寝不足のまま朝を迎えてしまった。
 朝食の席、もはや当然のように私の隣には爆豪が座っていて、女子たちの視線がチラチラ寄越されるのが気になる。どうしよう。今訊いていいのかな。どんな答えが返ってくるのかちっとも予想できないものだから、尋ねるタイミングを図るのも困難だ。

「爆豪に訊きたいことがあるんだけど」
「なんだよ急に」
「えっと……私、爆豪のことで何か気付いてないことある?」
「ぶふっ」

 爆豪ではなく、爆豪の正面に座っていた電気くんが牛乳を噴き出した。とても汚い。幸いにもこちらまで飛んでくることはなかったものの、私は牛乳を噴き出させるほどおかしなことを質問してしまったのだろうか。
 爆豪はパンをぱくぱくと頬張るだけで返事はなし。なんだ。無視なのか。別にいいけど。結局、私が気付いてないことって何なんだ。誰かに教えてもらわないと、気になって授業に集中できそうにない。
 ……と思っていたら、爆豪が席を立ちながら何か言った。椅子を引く音のせいでよく聞こえなかったけれど、よく考えてみれば爆豪が物音で聞き取れないほどの声量でぼそぼそと喋るのは非常に珍しい。

「ごめん、何て?」
「気付いてねえならそのままでいいっつったんだ!」
「えぇ……でも気になるよ」
「……鈍感女」
「どうせ私は鈍感ですよー!」
「いつか気付かせてやるから覚悟しとけや」

 だから何を? と訊いたところで、勿論と言うべきか答えは返ってこなかった。ただ、爆豪が皆に「テメェら勝手なことすんのいい加減やめろ」と言ったお陰か、その日から皆のおかしな行動はぱったりとなくなったので、それには感謝している。
 それにしても、いつか気付かせてやるって言われたけど、私は何か身構えなくちゃいけないのだろうか。誰に聞いても明確な返答はなく「爆豪(くん)次第」と返されて終了。
 それから暫くは爆豪に話しかけられる度にちょっとビクビクしたり過剰に反応したりしていたけれど、一ヶ月もすれば意識しなくなった。……途端に、爆豪がやけに絡むようになってきたような気がするのは、たぶん、気のせい。
 ついでに、A組の皆が爆豪と私のツーショットを見るとちょっとニヤニヤするようになったり、少し言い合いをするだけで「仲良いね」と茶化してくるようになったりしたのも、たぶん気のせい……だと思いたいけど、これは気のせいじゃない。たぶん。
 さらについでに言うと、爆豪の言動がなんとなく、なんとなくだけれど、日に日にマイルドになってきているような気がするのは、気のせいじゃないと思うのだ。そしてそんな爆豪をちょっぴり意識し始めている、なんて、とてもじゃないけれど言い出せない。
 これは気のせいじゃない。でも、じゃあどうしたら良いのだろう。こんなことになったのは皆と爆豪のせいだから、責任を取って教えてほしい。





▼あめさんへ
 この度はリクエストありがとうございました!
 あまりA組メンバーが頑張っている描写を入れられなかったのですが如何だったでしょうか?物足りなかったらすみません。最終的に爆豪が押して引いて押して押して押していく感じかなと勝手に続きを妄想していました。笑
 当サイトの「ぱぱかつ!」で爆豪にハマってくださったなんて夢書き冥利につきます…ありがとうございます!シリーズものなので不定期更新になりますが、今後もちまちまと話数を増やしていきたいと思っておりますので、また遊びに来ていただけると嬉しいです〜!