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愛をもって愛を制す


 轟焦凍。雄英生ならその名前を聞いただけで顔が思い浮かぶだろう。彼はそれぐらい有名な人物だから。
 私の一つ年下にあたる彼は、ナンバーツーヒーロー……否、現在はナンバーワンヒーローとなったエンデヴァーの息子だ。彼が入学してくる前、エンデヴァーの息子が入学してくるらしいという噂が瞬く間に広がったのは記憶に新しい。
 エンデヴァーに似ているのだとしたらどんな強面なのだろうかと思えば、入学してきたのはなんとも精悍な顔付きをした男の子。所謂イケメン。恐らく彼が有名人になったのはエンデヴァーの息子だから、という理由以外に、その端正な顔立ちに注目が集まったから、という理由も含まれていると思う。
 そして有名人となる理由はもう一つ。無論、その実力だ。エンデヴァーの息子だからてっきり炎を使うのだろうと思っていたのに、それとは正反対の氷を操る攻撃を主体としているのは意外だった。まあ今の私はその理由もよく知っているのだけれど、当時の私はひどく驚いたものだ。

「どうかしたか?」
「ううん、別に何も」
「俺の顔をじっと見つめてくるなんて珍しいから何かあったのかと思った」
「えっ、ごめん、全然意識してなかった!」

 彼と昼休憩を一緒に過ごすのは、もはや日常と化している。最初は、色んな人にじろじろ見られて恥ずかしいから勘弁してくれ、とお願いしたのだけれど、「見られないところなら良いのか」「見られて恥ずかしいことは何もないだろう」と、断固として了承してくれなかった。
 いまだに謎なのだ。彼が私に固執している理由が。というか、彼に何度「どうして私なのか」と尋ねても「好きになったことに理由がいるのか、好きなところを言えば納得するのか」と恥ずかしい誉め殺しが始まってしまうから、理由云々について問うのはもうやめた。

 彼との接点なんてなかった。私も彼と同じヒーロー科ではあるけれど、注目してもらえるほど優秀でもなければ、落ちこぼれということもない。自分で言うのは悲しいけれど、可もなく不可もなく、平々凡々を絵に描いたような女なのだ。
 しかし、彼はきちんと私のことを知っていた。彼が大活躍した体育祭で、私は悲しいかな、中途半端な成績だったというのに、彼はその時から私に目を付けていたというのである。
 所謂、一目惚れ、というやつ、だったらしい。成績だけでなく容姿も平々凡々な私に、誰もが羨むイケメンの彼が一目惚れなんて、どんな悪い冗談だと思った。
 体育祭が終わって数日経ったある日の放課後、教室に突撃訪問してきた彼に「みょうじセンパイいますか」と呼び出された時の私の心境をお分かりいただけるだろうか。それこそ、どんな悪い冗談? 罰ゲームの類いか? と疑わざるを得なかった。

「私で間違いない? 人違いじゃない? 大丈夫?」
「間違ってないっす。好きですって言いにきました」
「はい?」
「あ、俺、一年の轟焦凍です」
「いやそれは知ってるんだけど、え、あの、えーと……?」
「今日はそれが言いたくて来ただけなんで。また来ます」
「ちょっ、まっ、えっ、何!? なんなの!?」

 初めて会話を交わした時から、彼はマイペースすぎて度肝を抜かれた。本当か嘘かも分からぬ告白をして、順応できていない私に「返事はこれから考えてもらったらいいんで」「断られても諦めるつもりはないんすけど」などと言い残して去って行ったのだ。しかも教室の入り口のところで周りに他の生徒がいるにもかかわらず、堂々と。
 良くも悪くも平々凡々な私の日常が、あの日を境に一変した。当然、その噂は瞬く間に広がったからだ。しかもそれだけにとどまらず、彼はその日から毎日私の教室を訪れるようになったのだから、噂にはますます拍車がかかった。
 毎日私のところに来ては「昨日も言ったんすけど好きです」と宣う彼を追い払う元気も勇気もなかった。というか、最初の方はめちゃくちゃタチの悪い罰ゲームなのだろうと思って相手にしないようにしていた。しかしそれが二週間も続けばさすがに、いつまでこの罰ゲームは続くんだ? と疑問を抱かずにはいられなくて。

「これ、いつまで続くの?」
「これって?」
「私に告白してくるっていう罰ゲーム」
「罰ゲームじゃないんすけど」
「……まさか本気で毎日好きって言うためだけに私のところに来てるとか言わないよね?」
「俺が好きとか冗談で毎日言いにくるような奴に見えますか」

 見えないよ。見えないから困り果てちゃったんだよ。だって嘘だと思うじゃん。「なんで私なの?」って訊いても「わかんないっす」とか言うから余計に。
 でも、初めて見つめた目はどこまでも真っ直ぐで、これが嘘だったら私は一生人間不信になるって思うぐらい純粋な光を宿していたから、ああ、信じるしかないんだって、そこで漸く理解した。そして向き合った。彼の気持ちに。

「……正直、まだ、好きとか、わかんないんだけど」
「はい」
「これからもう少し、轟くんのこと、知っていけたらなって思うよ」

 率直な気持ちを伝えたら、彼は目を丸くして、それからちょっと嬉しそうに頬を緩めたのだ。その顔に「あ、好きかも」って思っちゃった私は、たぶんチョロい女なのだろう。
 そうして始まった恋人未満の関係は、いつの間にかきちんとした恋人という関係へと発展していた。いつの間か、って、私が彼からの想いをきちんと受け止めて「私も好きになっちゃったかも」って伝えた日から、なんだけど、それはまあ、恥ずかしいから割愛。
 彼は両想いになってからというもの、それまで以上に私にストレートすぎる愛をぶつけてくるようになったから、嬉しいけど、毎日恥ずかしくて堪らない。同じクラスの友だちや彼のクラスの生徒たちだけでなく、見ず知らずの生徒たちや先生にまでも関係がバレていたら、そりゃあもう学校のどこにいても気が休まらないわけで。
 ちなみに彼は冷やかしというものに全く動じない強靭な精神を持ち合わせているようで、何を言われても涼しい顔。そんな彼を見て、私も開き直るようになっていった。

 そうして、月日の経過とともに私たちの関係は雄英の日常へと溶け込んでいき、一緒にいることが普通だと認識されるようになった。
 彼が私のところにやって来る、もしくは中庭や食堂なとで待ち合わせをする、というのが常態化しているのだけれど、今日は珍しく私の方から彼の教室へと足を運ぶ。理由は特にない。しいて挙げるとすれば、たまには彼がびっくりする姿を見たいという悪戯心が働いたからだ。
 私はほぼ毎日のように彼にドキドキさせられっぱなしだだから、たまにはこういうのもありじゃないか、って。突然の私の登場に、少しぐらい動揺してくれたらいいな、って。そんな軽い気持ちで「焦凍くんいる?」と彼のクラスの子に声をかけた。
 金髪頭のその子は驚きつつもきちんと私が何者なのかを認識してくれたらしく、教室の奥の方にいるお目当ての彼に「轟ー! 彼女さん来てるー!」と、わざわざクラス中に響き渡る声量で呼び出してくれた。お陰で私には、クラス中の視線が突き刺さる。
 今更もう恥ずかしいとか、そういうことはあまり思わないのだけれど、それでもやっぱり居た堪れなさはあるから、どんな顔をしたら良いか分からない。そんな私の存在を遠くから認識した彼は、かなり焦った様子で走って来た。

「何かあったのか」
「いや、何もないけど」
「じゃあどうして来たんだ?」
「……焦凍くんに会いたくなったから、かな」

 本当のことだけれど、言葉にすると気恥ずかしい。いつも彼が難なく口にしているセリフとは、こんなに恥ずかしいものだったのか。言ってから、自分の顔に熱が集まるのを感じる。

「ごめん、びっくりさせたよね! また連絡する! また明日、」
「なまえ」
「へ、」

 たまには彼を動揺させてやりたいなんて思った私が馬鹿だった。私如きに彼を動揺させることなんてできるはずがない。
 自分で自分の発言に恥ずかしくなって言い逃げしようとした私の腕をがっちり掴んだ彼は、そのまま強く引っ張って自分の胸に私の頭を押し付ける。抱き寄せる、というにはやや乱暴だけれど、私は確実に彼に抱き寄せられていた。

「しょ、しょうとくん?」
「あんまり可愛いことされると困る」
「焦凍くんがいつもやってることなんだけど」
「そうか?」
「そうだよ」

 穏やかで落ち着いた声音が、私の鼓膜を震わせる。じんわり伝わる体温も心地良い……と浸りかけていた私は我に帰った。ここ、教室の入り口じゃん!

「焦凍くん! ちょっと離れようか!」
「どうしてだ」
「みんな見てる気がするし、」
「関係ない」
「関係あるよ……私が気にする……」
「嫌なのか」
「嫌ではないんだけど、そういう問題じゃなくて、」
「嫌じゃないなら良いだろ別に」

 良くない、良くないよ焦凍くん。彼越しにチラッと教室の奥を見たら、当然彼のクラスの子たちの視線が集中していた。
 完全に呆れられていると思う。この状況、ちっとも良くないんだけど、彼はどうやっても私を離してくれる気がなさそうだから、もう諦めるしかない。……なんて言い方をしたけれど、私も満更ではないんだろうな。





▼輝さんへ
 この度はリクエストありがとうございました!
 轟くん大好きなんですけど天然具合とイケメン具合の割合が難しくててこずってしまいました…クラスメイトに唖然とされるシチュエーションが表現しきれているか不安なのですが、轟くんがめちゃくちゃ夢主先輩のこと大好き!って感じが伝わっていたら嬉しいなと思います。
 爆豪パパシリーズも楽しんでいただけているようで光栄です!今後ものんびり更新していけたらと思っておりますので、また遊びに来てやってくださいませ〜!