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舞って、待って、


 単刀直入に言うと、私は落ちこぼれである。そう思っているのにはもちろん理由があった。
 私は一応ボーダーに属していてB級下位グループの射手を務めているのだけれど、最近のランク戦の結果は芳しくない。それは私が射手としての役割をきちんとこなせていないからだと思っている。
 そんなわけで、自分の駄目だったところや今後の改善点を探ろうとランク戦の映像を見ていたのだけれど、なんというか、どこが駄目だとかそういうレベルではなく、もはや褒められるところがないことに気付いてしまった。それはもう、実力はC級と変わらないのではないか? と疑いたくなるほどひどい有様。だから私は自分のことを落ちこぼれだと思っている、というわけだ。
 同じ隊の皆は先に帰ってしまい一人で反省会をしているので、誰かと話をしながら振り返ることもできず、私はただ落ち込むしかない。慰めてほしいわけではない(いや、ちょっとは慰めてほしいけれども)。この現状でどうすれば良いのか、具体的なアドバイスがほしかった。
 同じ隊の人には定期的に相談しているけれど、うちの隊の構成員はオペレーターと私以外攻撃手二人しかいないので、実際の戦闘中にどう動いたら良いかというアドバイスは難しいらしい。となると、やっぱり同じ射手の人に助けを求めるのが理に叶っているだろう。

 私の師匠……と勝手に言っても良いかはわからないけれど、とにかく、私に射手としての基礎を叩き込んでくれたのは、なんとびっくり、B級一位の隊長であり射手ナンバーワンの二宮さんだ。だから二宮さんに教えを乞うのが自然といえばそうなのだけれど。
 二宮さんのところに行こうと腰を上げる気にはなれなかった。だってこんな落ちこぼれの弟子には(二宮さんは弟子とも思っていない可能性が高いけれど)、きっとアドバイスのしようもないだろうし。泣きつかれても困るって思われるに決まっているし。
 私は特別トリオン量が多いわけではないから、二宮さんや出水くんみたいな戦い方はできない。かといって、加古さんや那須ちゃんみたいなセンスのある攻め方もできない。もちろん、他にも射手はいるし、動き方の参考に色んなランク戦の映像をチェックしたりもした。けれど結果はこれ。つまり、努力は無駄だったということだ。

「はあ……もう射手やめた方がいいのかな……」

 机に突っ伏して、ずっと考えていた本音を吐露する。悩み続けているけれど、いまだに答えは出ない。だからつい口から零れてしまった。
 まあ呟いたところでどうせ誰も聞いていないわけだから問題はないだろう。と、思っていたのだけれど。

「やめるのか」
「ひっ! ……に、二宮さん……!? いつからそこに……!」
「ノックはしたが」

 突然背後から声がしたものだから、思いっきり身体をビクつかせてしまった。冗談でもなんでもなくオバケが出たのかと思ったのだ。ホラー映画系が苦手な私にとって、今の二宮さんの登場の仕方は心臓に悪すぎる。
 しかしどうやら二宮さんはノックをしたらしい。ということは、私が頭を悩ませすぎていたせいで周りの音が聞こえない状態になっていて、二宮さんが部屋に入ってきたことにさえも気付かなかった、と。そういうことになるのだろう。どんだけ追い詰められてるんだ、私。
 二宮さんは私の斜め前の椅子に腰掛け、流しっぱなしにしていた私の無様なランク戦の映像を暫く眺めていた。何も言われないのが逆に居た堪れなくて、私はお茶を用意してみたり、お菓子はなかったかなと探しに行ってみたりとそわそわ。
 しかし、遂にその時がきた。「なまえ」と。二宮さんに呼ばれ椅子に座るよう視線で促されたのだ。きっと今から厳しいお叱りの言葉をいただくことになるのだろう。私は死刑宣告を受けた囚人のような面持ちで椅子に座った。当然視線は下げたまま。二宮さんの顔を見ることなんてできるはずがない。

「単刀直入に言う」
「はい」
「お前は」
「わかってます、私は射手に向いてないって」

 二宮さんに直球で「お前は射手に向いていない、やめようと思っているならそれは賢明な判断だ」と言われたら、たとえやめようかなと悩んでいたとしても傷付くような気がした。だから、自らそれを口にすることで遮った。

「誰がそんなことを言った?」
「え、いや、自分でそう思ってるというか……二宮さんもそう思ってるんじゃ……?」
「勝手に被害妄想するな」
「違うんですか?」
「俺は、お前は射手をやめるべきじゃない、と言おうとしたんだが?」

 その発言に、弾かれるようにして顔を上げる。すると、かなり不満そうな表情で私を見下ろす二宮さんと目が合った。
 きっと自分の発言を遮った挙句、言おうとしたことと真逆のことを私が言ったものだから不機嫌になっているのだろう。でも、だって、まさか二宮さんからそんな、励ましのような、慰めのような言葉をかけてもらえるなんて思わないし。

「で、でも私、全然ランク戦で戦力になれてないし、」
「基礎的なことはできている。ただ、他の隊員との連携がまるでできていないのが問題なだけだ」
「それはわかってるんですけど、どうしても上手くサポートができなくて……」
「それが問題だと言っている」

 はて、今の私の発言に何か問題点があっただろうか。首を傾げる私に、二宮さんは呆れ顔だ。その表情は「何もわかってないじゃないか」と言っている。

「お前はサポートに回るべきじゃない」
「え、でも、私はそんなにトリオン量が多いわけじゃないし、凝った攻撃ができるほどの技量もないから」
「合成弾や変化弾がなくても攻撃はできる」
「それはそうですけど、」
「攻撃手と連携すれば攻め方は無限にある」

 明確な答えは与えらなかった。そんなに甘い人じゃないことは知っている。けれど、今まで自分が考えたことのなかった方向性を指し示してくれた。それだけで十分だ。
 二宮さんは、なんだかんだで優しい。そのことも、私はよく知っている。だって優しくなかったら、私なんかに射手としての基礎を叩き込んだりはしてくれなかったと思うから。

「私、もう少し頑張ってみます」
「そうか」
「あの、ありがとうございました!」
「俺は何もしていない」
「はい! でも、ありがとうございました!」

 二宮さんは私が復活したことを見届けて、もしかしたら安心してくれたのかもしれない。ゆっくり立ち上がると颯爽と去って行った。
 私が今からやるべきことを整理する。自主トレーニングはもちろんだけれど、根本的な戦略や戦術を変えるために隊員の皆とミーティングをしなければ。

 それからのランク戦はというと、あれよあれよと言う間に勝利をおさめることができるようになりました、なんて都合の良い展開にはならなかったけれど、それ以前に比べたら格段に勝率が上がったと言い切れる。とにかく、やっとのことでB級中位に上がれそうかな、というところまではきた。
 二宮さんに改めてお礼を言わなくちゃ。そう思い続けて一ヶ月が経った頃に、漸く見つけたその姿。

「二宮さん!」
「みょうじか。どうした」
「あの、最近少しずつ勝てるようになってきました。二宮さんのアドバイスのお陰です。ありがとうございました!」
「言っただろう。俺は何もしていない」

 相変わらずの素っ気なさだけれど、別に不快には思わない。とりあえずきちんとお礼は言えたし、用件は済んだ。二宮さんは用件が終わってからだらだらと世間話をするタイプではないし、きっと忙しいだろう。
 私は「それじゃあまた」と踵を返す。そして一歩を踏み出す前に、ぽん、と。頭に何かがのせられた。何か、って、それが二宮さんの手だと認識するまでにそう時間はかからなかったのだけれど、理解するまでには少々時間を要す。

「よくやった」
「なにを……?」
「ただし気は抜くな」
「は、はいっ」

 そっぽを向きながらではあったけれど、確かに私の頭をぽんと撫でて「よくやった」と褒めてくれた二宮さんは、それからすぐに去って行ってしまった。けれど、私の頭には二宮さんから与えられた熱が確かに残っている。
 どんなに出来損ないでも、私が二宮さんの弟子だから気にかけてくれているのかな。他の人よりちょっぴり優しくしてもらえてたりするのかな。……なんて、浮かれ気分でいたら二宮さんに怒られちゃうよね。
 私は落ちこぼれだ。けれど、射手には向いている、かもしれない。そう思わせてくれた二宮さんに追い付くのは無理かもしれない。けれど、もう少し近付くことができたら。もう一歩、踏み出してみようかな。





▼おまるさんへ
 この度はリクエストありがとうございました!
 あまり素直に人を褒めることができなさそうな二宮さんの不器用すぎる優しさが伝わる内容になっていれば良いなと思います。そういうところもひっくるめて二宮さん愛おしい…(という私の個人的な感情が存分に込められてしまいましたすみません)。恋愛要素はほぼありませんが楽しんでいただけたら嬉しいです。
 今後もマイペースな更新となりますがまた遊びに来ていただけるのを楽しみにしております〜!