拝啓、きみ | ナノ




いま恋をしていますか?

きみへ

拝啓

今は梅雨です。でも今年はあまり雨が降りません。なんだか心配です。

妬かせてばかりでごめんなさい。でも想ってくれてるって分かって嬉しかったです。そう言ったらきっと貴方は照れて「うるさいな」なんていうんでしょう。
恭さんが来月の第一日曜に帰ってくるとボスから聞きました。その頃には雨が降る回数も減り、爽やかな暑さになっていると思います。晴れ間違い無しです。多分。恭さんが言った様にちょっとした相談を2人にしてもらいました。京子ちゃんとハルちゃんです。2人は信頼できます。安心してください。
恭さんが帰ってきたら、まず並中に行きましょう。恭さんが大好きな場所でしょう。それから並盛を散歩しましょう。かつての見回りのように。で、アジトで晩御飯作るための買出しを手伝ってもらいます。如何ですか。有意義でしょう。
折角ですから、余ったスペースは恭さんの好きなところで埋めていこうと思います。どうぞ赤面して下さい、なんて自惚れですかね?
まず、目つき。それに強さ。きゃしゃなくせにとても強くてたまにその強さが羨ましくなります。そこらや私などの女に負けず劣らず美しい顔立ち、白い肌、真っ黒な髪、唇。細長い指、すらっとした長い足、首筋、鎖骨、とても格好良いです。見た目だけでもこれだけありますね。内面は自信と、やはり小さな優しさですかね。ろこつに優しくしてくれるのではないのですが、私の歩調に合わせてくれたり、具合が悪いと気にかけてくれたり、寂しいといえば少しでもましになる様に色々してくれます。のろまな私を助けてくれたり庇ってくれたり、誕生日は忘れないでくれます。そのくせ「有難う。」というと「別に。君のためじゃないから。僕のため。」と言ってくれます。私が悩んでいる時は深く追わないものの、欲しい言葉を選んで言ってくれます。泣きそうな時は「泣けば良いのに。」と言ってくれます。大好きだと言っても「ふうん。」としか言ってくれませんが、唐突に僕は愛してるよと言ってくれるのは、とてもどきどきします。私は多分、恋をしているし恭さんを愛しているんだと思います。
恭さん、いま恋をしていますか?

では、来月を楽しみにしていますね。

苗字 名前

敬具

読み返して恥ずかしくなった。でも送るって決めたんだ。便箋に手紙を入れる。のりでしっかり封をして、鞄に入れる。帰りにでも出しに行こう。時計を見るともう朝の5時だ。残業ついでに手紙を書いたからか、時間がたつのは早い。
「さて、今日はこのまま泊まっちゃおうかな」
誰もいないアジトの会議室に私の一人言だけが響く。虚しくなったが、いつもだ。鞄を掴み、ディスクを取り、パソコンの電源を落とす。もう移動も面倒なので、ディスクを片付けて、机に突っ伏した。
「恭さん、早く来てくださいよ……」
半分闇に飲まれながら、また一人言を呟く。心なしか、肩から背中にかけてが暖かくなった。それに少しの重み。腹に何かが巻きついた。肩に何かさらさらとかすれてくすぐったい。
「いるじゃないか、此処に。」
ああ、恭さん……の夢でも見てるのかな。
「夢…ら覚……なー……」
「夢?何言ってんの。君が会いたがってたから来てやったんだよ。」
 聞き覚えのある声……やっぱり恭さんが、ん?あれ?
ゆっくりと上半身を起こす。すると腹に巻いてあったものとさらさらしたものが離れて、今度は首に巻きつかれた。それを触る。布の感触と、暖かい布越しの体温。
「ただいま。」
耳元で低く囁かれた声。
「おかえり?え、恭さん?帰って来た、え?」
目をこすってみたけど、体温は消えない。
「あまりにも心配だったから、一ヶ月も早く帰ってきたんだよ。感謝しなよね。」
じわりと目元が濡れるのが分かる。それを乱暴にぬぐって、椅子からゆっくり立ちあがり、振り向く。いったん離れた全ての温度が、今度は全体を包む。
「恭さん、お、帰りな、さい!」
「ただいま名前。会いたかった。」
「私、もで、す。」
「暫くはこっちにいられるから。折角帰ってきたんだから、泣かないでよ。」
「は、い。」

拝啓 きみへ とてもあいたかったです。 敬具



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