小説 | ナノ


今日も楽しくない授業が終わった。いそいそと教科書を片付ける音や友達と雑談する声が教室を賑わす。所で私の肩を誰かがぽんぽんと叩いたんだけど、後ろの席の臨也くんだろうか?正解は残念、臨也だ。奴は無駄にかっくいいスマイリースマイルを向けて、何かあった?と訊いてきた。授業中溜め息ばかり吐いてたのが聞こえたらしい。そのスマイリースマイルに私が授業中というか今日中ずっと悩んでたことを打ち明ければ一部の人のみが知っているニヤニヤうざうざスマイルに変わり超饒舌で悩みを打ち砕いてくれるだろう、悪い意味で。もうそれでもいいやぁ。なんだかもういっそ罵られたい。……違、ドMとかじゃなくて、もう辛くてしょうがないから、馬鹿じゃないのそんなことで悩むとか暇なんだね、っていっそ切り捨ててほしい。私なんて駄目な奴なんだって思う私が認められるなら。臨也ならそれができる。

「私って才能無いよね」

あえて言うなら超凡才だね、ははは。と卑屈になって自嘲した。何て言うか、顔の筋肉動いた気がしなかったけど。真顔ではははとか私気持ち悪っ。

「例えば?」

おや、臨也がスマイリースマイルを崩した。珍しいなぁ、ニヤニヤうざうざスマイルに変わるどころかなんか真剣じゃないですか?ああこうやっといてあとで噴き出してポカンとしてる所で大笑いして貶すんですね。どうせ笑われるなら思いきって吐いちまえ。

「頭が良い訳じゃないし、運動だってあまり出来ないし、絵も字も特別上手くない。人付き合いも得意じゃないし発表とか苦手だし歌とかもふつーだしさ、料理も裁縫もそんなに上手くないんだよね、集中力もないし洞察力もないし物事に柔軟に対応できないし、私って何もできないなぁって、あはは」

口に出すとスッキリもするけど自分の嫌なところ全部再確認しちゃって落ち込むな。それよりまだ顔の筋肉動いた気がしないんですけど無表情であははとか以下略。

「そうかもね」

「ですよねー」

臨也から励ましや慰めなんて無いってのは分かってたしある意味認めてくれたから良いんだけどやっぱり私は他人から見ても才能無いんだ。

「でもさ、新羅やシズちゃんについてける粘着性は有るんじゃない?」

しつこいって事?粘り強いって事?それって褒めてるの、と聞けば、さぁ君がそう思うならそうなんじゃない、って嗤った。褒めてないですねしつこいって事ですね。

「不満な訳?」
「じゃないけどさ」

一応粘り強いって方にもとれるし。あれ、結局私はどうしたいんだろう?貶されたいの?慰めてほしいの?悶々と悩んでいると臨也が、あ、と声を出した。何?の意を込めて自分の腕に下げていた視線を臨也に合わせる。

「あと」

ぼっと臨也の紅い目を見てたら、紅はふっと細くなり、笑った。スマイリースマイルじゃない、ニヤニヤでもうざうざでもない、ただ、素直に。

「俺の興味を引くくらい、優しい」

「……へ?」

「偽善だかなんだか知らないけどさ、君は優しいよ」

臨也はそう言うとじゃあね、と悪戯を仕掛けた子供のように笑って、ホームルームが残ってるはずの騒がしい教室から出ていった。皮肉だったのかもしれない、冗談だったかもしれない、嘘かもしれない、けど、私は言われなれない言葉とあの柔らかい微笑に赤面するしかなかった。きっと私は嬉しかったんだ、私の気持ちを理解して、否定はしないけど肯定もしない、あの零の見方が。


110215

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