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あー、寒い。自販機で買ったホットコーヒーをカイロ代わりにまだかまだかと次の電車を待つも、仕事を終え疲れきった身体にこの寒さは堪える。ぼんやりと反対側のホームを眺めれば疲れきった仕事帰りのサラリーマン、参考書と向き合う塾帰りの学生、身を寄せ合うカップル。誰もこれもが寒さに身を縮めている。

雪が降ってもおかしくないなと考えていると、ポケットに入れていた携帯が振動する。新着メールが一件。相手は涼太くんからだ。

『今日も一日お疲れさま!駅前で待ってるっス!』

犬耳が見えそうな文面に一人顔を綻ばせる。マフラーで口元隠れててよかった。見えないことを良い事に緩みきった口元はそのままに『あと20分くらいでそっち着くから駅前のコンビニで待ってて』と返す。『了解っス!』と返事が来ると同時に、次の電車が来ることを知らせる駅のアナウンスが流れる。やっとこの寒さから解放される、と思い乗り込んだ電車は帰宅ラッシュの満員電車。できればこんな満員電車乗りたくはないけど、これに乗らなければその分涼太くんを待たせてしまう。もう一踏ん張りだと自分に喝を入れて既にぎゅうぎゅうの電車に乗り込んだ。


最寄りの駅に着き外に出るとあまりの寒さに身を縮めた。電車の中は暖房がついていたし、手にコーヒーを握っていたお陰でだいぶ温まった体も、体温を根こそぎ奪われそうだ。足早に涼太くんの待つコンビニへ向かおうと改札を出る。するとどうだろう。見慣れた姿がガードレールに腰かけているではないか。わたしの存在に気づき軽く手を振る彼に小走りで近づいた。


「涼太くん!」
「名前っち、お疲れさまっス」
「コンビニで待っててって言ったのに」
「はじめは中で待ってたんスけど、早く会いたくて。名前っちに何かあっても嫌だしね」
「この寒い中ずっと!?」


触れた手の冷たさに驚いて思わず引っ込める。暗がりでわかりにくいが、彼の鼻が心なしか赤いように見える。しかも鼻声だ。ちょっとバカなところがあるなとは思っていたけど、こんな寒い中外で待つようなバカだとは思わなかった。風邪でもひいたらどうするの!と怒鳴りたい衝動にかられたが今は彼に暖をとらせる方が先だ。そういえば鞄に未開封のカイロがあったはず。鞄に伸ばそうとした手は叶うことなくわたしの両手は涼太くんの両頬を包む。その上から涼太くんの手が重なる。

「あったかい…」
「ずっとコーヒー握ってたからかな」
「ハハ、名前っち温かいっス」
「寒い中待たせてごめんね」
「ぎゅーってしたらもっと温かくなるんスけど」
「え、今!?」
「はい、ぎゅー!」


涼太くんの胸にすっぽり収まって苦しいくらいに抱きしめられる。涼太くんの大きな体に包まれた分外気に晒される部分は少なくなるが、身体が熱を持つ理由はそれだけじゃない。


「涼太くん…帰ろう?」
「んーもうちょっと」
「寒くない?」
「名前っちがいるからあったかいっス」


だからね、もうちょっとだけこうしてよう?涼太くんの甘い声にわたしの身体は寒さで熱が逃げるどころか熱を帯びるばかり。

敵わないなあ…。

寒い中ずっと待っていてくれた彼に免じて、もう少しだけこのままでいてあげよう。


砂糖が溶けだす冬の夜

2012.12.11
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