カカシ先輩と暗部後輩 | ナノ

【宵花火おまけ-カカシ視点-】



暗部の何人かが集まって飲み会が開かれることになった。普段は班ごとに活動することが多く、それなりに忙しい連中だが今回は珍しくそこそこの人数が集まるらしい。
酒は嫌いではないが人の大勢集まる場所があまり好きではない。今回の飲み会も参加するか迷っていたのだが、幹事の男が「お前の後輩のあの可愛い子も来るぞ。あとテンゾウも」と言った。テンゾウはどうでもいいが、しっかりとしているようでどこかのほほんと抜けている彼女が気がかりだった。テンゾウを筆頭に、どいつもこいつも酔うと面倒なやつらだ。彼女が戸惑う姿が目に見える。幹事に参加の趣旨を伝えると、「ふーん」と含みを持たせる様な顔をされた。……なんなんだ一体。目で問いかけると幹事は察したらしく、小さく笑った。

「あの子はカカシのお気に入りだって噂は本当だったみたいだな」
「……」

そんな噂聞いたことがない。まあ、噂というのは当事者の耳にはなかなか入ってこないから当然といえば当然か。

「で、噂の真偽はどっちなんだ?」
「……可愛がっている後輩の一人ってところかな」
「相変わらず食えない奴だな」

当たり障りのない返答に不服そうだったが、これ以上聞いても無駄だとわかったのか、その話はそこで打ち切りになった。



飲み会当日。火影様に呼ばれた為、時間より少し遅れて指定の居酒屋へ向かった。入口に貼ってあった花火大会のポスターがふと目に入る。花火大会……毎日忙しくてすっかり忘れていたが、もうそんな時期だったか。花火好きそうだな、と花火に目を輝かせる後輩を想像して、今日誘ってみようかと暖簾をくぐった。

通された大部屋は既にどんちゃん騒ぎだった。オレに気付いた奴らが呂律の回らない口調で「カカシさんおつかれさまれーす」と緩い挨拶をしてくる。多少の無礼講は大目に見るが、出来上がるの早すぎでしょ、と少々呆れてしまう。

ざっと見渡すと彼女はテンゾウの隣でいつもの後輩達と飲んでいた。当然のように隣にいるテンゾウにイラっとした。ただの幼馴染だと言うけれど、相変わらず仲のよろしい事だ。こちらに気付いた彼女たちと軽く挨拶を交わして、少し離れた空いている席へと座る。近くにいた奴がグラスにビールを注いでくれたので、それを一気に煽いだ。

「そうカリカリするなよ」

そう声をかけて来たのは幹事の男だった。手に持っているビール瓶に、今注いでくれたのがそいつだと気づく。

「後輩ちゃんの隣テンゾウに奪われて妬いてるんだろう?」
「……」

ちらりと彼女の方を見る。彼女はテンゾウ達と楽しそうに談笑しており、ほろ酔い状態のテンゾウの手が彼女の肩に置かれていている。幹事の言葉を否定したくても、イライラがおさまらず、言い返す気にもならない。そんな態度に幹事はカラカラ笑って「あまり飲みすぎるなよ」と肩を叩いて席を立った。

その後も飲みながら彼女たちのテーブルを見ていたが、テンゾウが酔っぱらって面倒くさいことになっていた。ぐちぐち言ったり、泣きだすテンゾウを、彼女は甲斐甲斐しく世話をしている。……そんな奴放っておけばいいのに。グラスの酒を一気に飲み干して、通りかかって店員に追加を注文する。その店員は酷く怯えていた。きっとオレは恐ろしい顔をしていのだろう。思えばさっきからこのテーブルには誰も近づこうとしない。

頭がいい感じにふわふわしてきた頃、ふと後ろに気配を感じた。もしかしてと思い振り返ると、彼女がまあるい目を更にまん丸くして立っていた。

「カカシ先輩。……顔真っ赤ですね」
「……そう?」

そんなに飲んでいただろうかと首を傾げると、彼女がクスリと笑った。
さっきまで荒んでいた心が、一気に洗われていくような気がした。



その日夢を見た。

彼女の柔らかい頬に触れて、この腕に閉じ込めた。
甘やかな香りに誘われて、彼女の耳朶へと舌を這わせると、彼女が一際高い声を上げる。
その可愛さに自分が止められなくなり、衝動に身を任せるように彼女を押し倒した。

これは全部夢の中の出来事で、自分の内に眠る欲のかたちなのだと思っていた。
けれど、触れた感触や、耳に残る声がやけにリアルだった。まさか、という気持ちと、そんなはずない、という気持ちを半々抱えたまま、数日後彼女と任務へ行くこととなる。

そして、夢だと思っていたそれが現実であったことを、花火の夜知るのだった。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -