【水風船/入れようと思って入らなかったネタ】
「カカシ先輩たこやき食べませんか?」
「いいね」
「私買ってきます」
「待って」
「はい?」
「たこやきオレが買ってくるよ」
「いえ。先輩に買いに行かせるわけには!」
「いいから、ここで待ってて」
「あ!せんぱ……行っちゃった」
引き留める間もなくカカシ先輩は人ごみの中に姿を消してしまった。今から追いかけても行き違いになってしまう可能性がある。大人しくここで待っていよう。
先輩が戻ってくる前に……っと柱に手をついて下駄を脱ぐと、予想通り鼻緒のあたる指の間のところが擦れて赤くなっていた。カカシ先輩はもしかしてこれに気づいてここで待っているように言ったのかな。考えすぎかな。
下駄を履きなおしていると目の前に影が落ちた。先輩が戻って来たのかなと思い顔を上げると知らない男の人が二人立っていた。
「可愛いねー一人?」
「せっかく祭りに来てるんだからオレ達と遊ばない?」
胡散臭い笑みを浮かべている見るからに軽薄そうな人達だった。
「連れを待っているだけなので」
「そんなこと言わずにさ」
「っ!離してください!」
腕を掴まれて無理やり引っ張られたせいで黄色い水風船が地面に落ちて割れた。先輩から頂いたピンク色の方じゃなくてよかったと漠然に思った。
男性達はおかまいなしに腕を引いて肩に手を回してくる。抵抗しようにも二人がかりでは振りほどけない。
カカシ先輩に触れられた時にはなかった嫌悪感がふつふつと湧いてくる。
やめて……こわい……気持ち悪い……。
カカシ先輩……!!
「お前ら人の女に何してんだ?」
普段より数段低いカカシ先輩の声が聞こえて、肩に回されていた手が離れた。代わりによく知った香りに包まれてほっと胸を撫で下ろす。
いつもならカカシ先輩とこんなに密着したらドキドキして心臓が飛び出そうになるけど、今はとても安心する。
「もう大丈夫だよ。ごめんね一人にして」
「いえ……来てくださってありがとうございます……」
カカシ先輩の手が優しく背中を摩ってくれる。それがなんだか心地よくてしばらくそのまま身を預けていた。…………あれ?
「……あの、人の女ってどういう意味ですか?」
先ほどの言葉を思い返し体を離してカカシ先輩に訊いてみる。
「オレの後輩って意味だよ」
「そっか、そうですよね」
後輩って意味かーそうだよね深い意味はないよね……。さっきまで恋人のフリをしていたから勘違いするところだった。
「たこ焼き冷めちゃうから移動しようか」
「はい」
でも今はもう演技する必要ないのにどうして指を絡ませて手を繋いでるんだろう……まあいっか。