カカシ先輩と暗部後輩 | ナノ

私の所属している暗部――正式名称「暗殺戦術特殊部隊」――は火影様直轄の部隊である。その名の通り、暗殺から特殊な能力を必要とする任務まで、機密性の高い内容のものを幅広く請け負う影の部隊なのだけれど、年がら年中そういう任務ばっかりやっている訳では無い。火影様直轄というその立ち位置ゆえに、火影様のちょっとした雑用なんかを押しつけ…頼まれる事もあったりするのだ。

そんなわけで、本日私は火影室の隣にある巻物倉庫にて、その整理という雑…任務を言い渡されたのだった。この部屋にしまわれている巻物は、かなり貴重なものや危険なものばかりなので、誰にでも頼める任務という訳では無い。暗部に所属しているからこそ頼まれた仕事なのである。それに、ただ整理をするだけではなく、重要な巻物にほどこされている封印が緩んでいないか点検をして、必要があれば封印をかけ直すという作業もしなければならない。封印術が得意な私が駆り出されたのは必然なのだった。

それにしても、たった一人でこの分量は……山のような巻物をみていると、やっぱりため息がでてしまう。朝一番から始めたというのに、まだまだ全然終わりが見えない。正午はもうとっくに過ぎていて、いい加減お腹も減ってきた……。
話し相手がいないのも退屈だし、地味に重い巻物を運び続けて、腕が痺れてきている。そろそろ、お昼ご飯にしよう。テンゾウとこの前行った定食屋さんが美味しかったから、今日はあそこに行こうかな。

テンゾウは今日、カカシ先輩と二人で任務だと言っていた。正直羨ましい。私だって、こんな晴れた日には任務で体を動かしたいし、カカシ先輩の戦う姿を見て勉強したい。

ふと、先日三人でホラー映画をみたりして過ごした事を思い出した。楽しかったなあ……。また、あんな風に三人でわいわい過ごしたいけれど、梅雨はすっかり過ぎ去ってしまった。

この巻物だけ確認したらお昼にしよう、と思って、深い青色をした巻物を手に取った。外側の布の質感といい、ずっしりとした重みといい、いかにも貴重な内容が書かれていそうだ。何が書かれている巻物なのかは、外側からみたかぎりわからない。まったくもう、ちゃんとラベリングしておかないと整理するとき困るんだよね……。使途不明の巻物に関しては、あとで火影様に聞かなくてはいけないので、そういった巻物を一時的に置いている箱に入れようとしていると、手の内に不思議な感覚がした。ぴりぴりと、弱い電流のようなものが走った気がしたのだ。

「え……?」

青白い、雷のような光が巻物から発せられている。びっくりして凝視していると、光がどんどん強くなって、唐突に、ボフンッと大きな煙が上がった。

「……わっ!?」

もくもくとあがる煙幕に驚いて、巻物を取り落としてしまう。床に転がった巻物の紐が解かれて、ころころ転がりながら開くのが、煙の向こうにうっすら見えた。

「……!!」

やがて、煙の中に人影があるという事に気づき、ぞくりと背筋が粟立つ。この部屋には私一人しかいなかったはず。瞬間私はクナイを手に、人影に接近し背後にまわりこんだ。

「動くな……!」

煙幕の中、後ろ姿に向かってクナイを突きつける。

「……まったく、そうあわてるんじゃないよ」
「……!?」

背後から声がしたかと思うと、あっという間にクナイを持っていた方の手首を掴まれてしまった。ふりほどこうとするけれどびくともしない。もう片方の手もしっかり掴まれてしまっている。まるで気配を感じなかったことに動揺していると、目の前で、私がクナイを突きつけていたハズの人影が、煙を立てて消えてしまった。……影分身だったらしい。気づかなかったなんて、間抜けすぎる。

舌打ちしたくなりながら、緊張に身を固くした。背後にいる人物に、いつ殺されても可笑しくない状況だ。ごくりと唾を飲み込んで、冷や汗をかきながら相手の出方をうかがうけれど、不思議なことに殺気らしきものを感じない。

「くくく……そんなにビクビクしないでよ、ナズナ」

私の名前を知っている……!?それにこの声、聞き覚えが……。

「こっち向いて?」

両手の拘束が解けて、恐る恐る振り向くと、そこにはカカシ先輩が立っていた。……今日はテンゾウと任務のはずじゃ!?

「カカシ先輩……その格好、どうしたんですか?」
「ん?……あー……そっか」

カカシ先輩は見慣れない格好をしていた。見慣れないといっても、木ノ葉の忍の標準服なのだけれど……。緑色のベストに紺色の長袖シャツとズボン。カカシ先輩が上忍正規部隊の服を着ているところを、私は今まで一度も見た事が無かった。階級としては上忍なのだから、先輩がこの服を着ている事は何にもおかしくないのだけれど。
カカシ先輩は左目を隠すように、額あてを斜めに巻いている。先輩の珍しい姿をまじまじと見つめてしまった。

「ナズナ、今はまだ十代だっけ?」
「え?……はい。いきなりどうしたんですか?」
「いや本当に……この頃から食べちゃいたいぐらい可愛いね」
「はっ……!?」

先輩のセリフに驚いて言葉を無くしている私に構わず、カカシ先輩はニヤニヤ笑いながら、私の頭を撫で回した。こんな風に先輩に頭を撫でられる事は、これまでにもあったけれど……なんとなく今日の先輩はいつもと何かが違うように思う。けれど、何が違っているのかはわからなかった。
じっと見上げると、「そんなに見つめられると照れるなあ」とカカシ先輩は頬をかきながら笑った。私は慌てて俯いた。

「しかし四代目の巻物、まさか本物だったとはね……」
「え?」
「今頃あっちでナルト達が大騒ぎしてそうだな……」
「……?」

ナルトって誰だろう。カカシ先輩がぶつぶつと何かを言っているけれど、何のことやらさっぱりわからない。

「ま、明日になれば元に戻るでしょ」
「カカシ先輩……さっきから何をおっしゃってるのか全然わかりません」
「あー、ごめんね……。ところでナズナ。見たところ巻物の整理でも頼まれてたの?」
「え?はい、そうですが……」
「こっちも昼時だよね。もうお昼食べちゃった?」
「いえ、これから行こうかと思ってたところです」
「ちょうど良かった!オレも腹減っててさ。一緒に行こう」

頷くよりはやく、にこにこ笑うカカシ先輩に肩を抱かれて、私は部屋から連れ出された。なんだか今日のカカシ先輩は、いつもより距離が近いような気がする……!あまりにも自然に肩に手を回されたので、驚いてる私が変みたいだ。先輩の様子を伺うけど、優しく微笑まれるだけだった。そんなカカシ先輩に物申す勇気など無くて、私はどぎまぎしながら、先輩の隣を歩いた。




「そのカカシ先輩っていうの、やめない?」

焼き魚の身をほぐしながら、カカシ先輩が突然言った。

「え……?」
「違和感がすごい……」

違和感とは……。先輩の言っている意味がわからず、固まってしまう。

「カカシさんって呼んでほしいんだけど」
「えっ……?か、カカシさんですか?」

口に出しながら自分の顔に熱が集まるのが解った。

「そ。そう呼んでくれるとありがたいな」

カカシ先輩が右目を弓なりにして微笑む。右目しか見えていない先輩は新鮮で、食事中だからマスクを外しているので、形の良い唇が綺麗な笑みを浮かべるのが見えた。ただ向かい合っているだけなのに、私はドキドキしてしまった。

それにしても突然、カカシさんって呼んで、だなんて……。この間のお祭りの日に言っていたのは、あの場限りの事じゃ無かったんだろうか。

「か、カカシさん……」
「ん。ごーかっく!」

カカシ先輩はにっこりと満足げに微笑んでいる。先輩の明るい声を聞きながら、私はますます、何かがいつもの先輩と違うような気がして、どうしても違和感が拭えなかった。けれど、どこが違っているのか、格好以外のことはピンとこない。

「先輩、……あ、カカシさん。今日はどうして正規部隊の服を着ているんですか?」
「んー。上忍としての任務があったから、かな」
「そ、そうなんですね」

テンゾウとの任務はもう終わって、これからって事なんだろうか?
考えながらご飯をもぐもぐ食べていると、カカシ先輩がぼそりと、「ま、嘘はついてないでしょ……」と言ったような気がした。

「……オレは今任務中なのかな」
「へ?」

つぶやきの意味がわからず、カカシ先輩の顔をまじまじと見てしまう。カカシ先輩いま…何かの任務中なの?でも、自分で自分に疑問形って一体どういう事?

「テンゾウは今日何してるの?」
「……?今日、テンゾウと任務じゃなかったんですか?もう終わって帰ってきたのかと思ってました」
「……ふむ。なるほどね」

何がなるほどなのかはわからないけれど、カカシ先輩は納得したように顎に手を当てて頷いている。

「ナズナ、巻物の整理はあとどのくらいで終わりそう?」
「まだまだかかりそうです」
「この後、オレも手伝うよ」
「え!?良いんですか?」
「うん。……そのかわり、お願いがあるんだけど」
「はい、なんでしょうか?」
「今晩泊めてくれない?」

驚きのあまり箸を取り落とした私の前で、カカシ先輩はにこにこと笑っている。

「と、泊めっ…!?私の部屋にですか?」
「うん」

先輩はにこやかな表情を崩さず言う。どうやら冗談ではないらしい。

「せ…カカシさん自分の部屋は」
「オレの部屋はオレが使ってるからなあ」
「え?」
「テンゾウの部屋で二人きりとか死んでも嫌だし……今日だけでいいから頼むよナズナ」

先輩に微笑まれて、私は何も言えずに戸惑っていた。尊敬しているカカシ先輩の頼みとはいえ、私の部屋に……カカシ先輩を泊めるだなんて……!

「やっぱり……ダメかな?」

カカシ先輩は首をかしげて表情を曇らせた。先輩にそんな困り顔をされてしまえば、断れるわけがない。カカシ先輩の事だから、きっと何かやむにやまれぬ事情があるのだろう。あの巻物の事もまだ話してはくれないし……。

私は観念して「わかりました…」と小さく言った。カカシ先輩はとびっきりの笑顔になって「助かるよ」とおっしゃった。



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