拍手LOG | ナノ
「ただいまー」

パンプスを脱ぎ捨てて玄関になだれ込むように倒れこむ。激務をこなした体はくたくたでもう一歩も動けそうにない。

「おかえり……大丈夫か?」
「い、イタチ……!」

イタチくんの顔を見たら今日一日張り詰めていたものが解けて泣きそうなり、堪らず抱きついた。あやす様に頭を撫でる手が心地よくて、首に腕を回してイタチに身体を預ける。
イタチの腕の中にいると、上司に理不尽に当たられたこととか、取引先の無茶ぶりとか、お金にならない残業とか全部どうでもよくなる。

「今日も一日頑張ったな」
「うう、つかれた……」
「歩けるか?」
「もうやだ動きたくない」
「……仕方ないな」

体が突然宙に浮いて、横抱きにされた。

「夕飯はお前が好きなものを用意してある。部屋まで運ぶから早く着替えてこい」

肩に顔を埋めたまま頷くと、イタチが少し笑った気がした。



イタチは優しくてイケメンでなんでもそつなくこなしてしまう。私には勿体ないくらいできた彼氏だ。私が仕事で疲れたと愚痴をこぼしても、嫌な顔するどころか「オレでよければ夕飯作りに行こうか」と言ってくれた。自炊はできないわけじゃないけど、帰りも遅く自炊する気力が湧かないのでイタチに負担にならない程度で作りに来てもらっている。最近では食事だけでなくお風呂も沸かしてくれていたり、洗濯までしてくれていて、下着が洗濯ばさみにぶら下がっていたのを見た時は流石に恥ずかしくて死にそうな気分だった(イタチのことだから表情ひとつ変えずに干してそうだ)。

私は美人なわけではないし可愛くもない。何か特別秀たものがあるわけではないけれど、少しでもイタチにつり合うような女になりたい。



「ホットココア飲むだろう」
「……ありがとう」

いつもお風呂上りに飲んでいるホットココアの入ったマグカップを受け取り腰を下ろす。
イタチにつり合うようなできた彼女になりたいのに、むしろこれじゃあ……

「はあ……」
「どうかしたか?」
「イタチが甘やかすから私どんどんダメ人間になっている気がする」
「何か問題でもあるのか?」
「問題大ありだよ。甘えっぱなしでイタチがいなきゃ生きていけなくなっちゃう」
「それなら問題ない」

耳元に吐息がかかるくらいイタチの顔が近づく。

「オレなしでは生きていけなくなればいい」




(もうとっくにあなたなしでは生きていけないよ)
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -