短編 | ナノ

「んふふふふふ」
「怪しい声あげてどうしたのよ」
「えっとねー何でもなーい、んふふふ」
「……変なヤツ」

9月15日をハートで囲ったカレンダーを見ては、毎日にやにやが止まらない。
あと一ヶ月、あと3週間、あと2週間。カカシの誕生日が着々と近づいているのを、目で追うだけでわくわくする。だけど、何をプレゼントしようか迷ってしまい、いまだにプレゼントが決まっていない。非番の日に雑貨屋を巡ってみても、目ぼしい物はこれといって見つからない。そもそも、カカシは元から物欲がないし、私より稼いでいるから欲しいものは大抵自分で買えてしまうから、何をあげていいのかさっぱりわからない。
甘い物も苦手だからケーキも喜ばないだろうし、好物の秋刀魚の塩焼きや茄子の味噌汁は普段からよく作っているから特別感がない。
せっかくの誕生日なんだから、心に残るようなとっておきの物をあげたいのに。

これではらちが明かないと、おもいきって本人に聞いてみることにした。

「ねえ、今何が欲しい?」
「あ、そこの本取って」
「これ?はい」
「ありがと」
「で、何が欲しい?」
「ビール飲みたい」
「冷蔵庫に冷やしたやつが……ってそういうんじゃなくて!」
「じゃあ何よ」
「もうすぐカカシの誕生日でしょ?プレゼント何がいいかって聞いてるの」

カカシは少し考えて「誕生日?……ああ、そういうこと」と納得したようにぽつりと漏らした。

「プレゼントなんていいよ」
「遠慮しないで。この日のためにへそくり溜めたから」
「たかが誕生日でしょ?そこまでする必要ある?」
「たかがじゃないよ!カカシの生まれた日だもん。こんな特別な日お祝いしなくてどうするの!」

誕生日を祝いたい理由を力説すると、カカシがフッと目を細めて遠くを見るような目をした。

「特別……か。誕生日が特別な日だなんて、考えたことなかったな」
「今までお祝いしてこなかったの?」
「昔は父さんや同じ班の仲間たちが祝ってくれていたけど、今は誕生日を祝ってもらえるような親しい友人はいないし、もう年をとって素直に喜べる年齢でもない。戸籍上必要なだけで、もうずっと誕生日なんてあってないようなものだった」
「そう、だったんだ……」

一瞬、しんみりとした空気が流れて、なんと声をかけていいいか迷っている私に気づいたのか、カカシがあやすような手つきで頭を撫でてくれる。

「せっかく祝おうとしてくれたのに、つまらない話してごめんね」
「……そんなことないよ」
「そういうわけだからさ、ナマエも祝わなくていいよ。気持ちだけ貰っておく」

そういってカカシは立ち上がると、ビールを求めて台所へと消えてしまった。
私はその場に立ちすくんだまま、カカシの言葉を頭の中で反芻させていた。

誕生日は、誰もが特別な日なんだと思ってた。
みんなに祝福されて、生まれてきたことに感謝する。
それなのに、カカシにとっては、あってないようなものだと言う。
祝わなくていいと言ったカカシの顔は期待も落胆も何もない。それが当たり前なのだと受け入れた顔だった。だけど、そんなのって悲しいよ。カカシに気付いて欲しい。あなたをお祝いしたい人はたくさんいることを――。



9月14日。カカシの誕生日前夜。
結局、プレゼントも、ケーキも、ご馳走も、何も用意していない。任務の後そのままカカシの家に転がりこんでまったりする。至っていつも通りの夜。もうお風呂まで入ってあとは寝るだけだ。
きっとこのまま何事もなく誕生日を迎えて、当日が過ぎていくのだろう。……と、カカシは思っているはずだ。

日付が変わるまであと10秒。



5…4…3…2…1…



「カカシ、お誕生日おめでとう!」

私の声を合図に玄関と窓が一斉に開いて、部屋中にクラッカーの破裂音が響いた。

「…………は?」

状況が読み込めないカカシの頭の上に、紙吹雪がはらはらと舞っている。
事前に開けておいた玄関や窓から入ってきた同僚達はわらわらとカカシの前に集まった。
ちなみに、こんな夜更けにクラッカーなんてご近所さんからしたら迷惑極まりないが、事前に事情を説明して承諾を得ている。

「見たことないアホ面だな、カカシ」
「アスマ……!」

アスマが『本日の主役!!』と描かれたタスキをカカシにかけて、頭に円錐形のとんがり帽子を乗せる。

「おめでとうカカシ。誕生日だっていうから、奮発していいお酒持って来たわ」
「紅……!」

紅がお酒を注いだグラスをカカシに手渡す。

「カカシ!どちらが多くロウソクを吹き消せるか勝負といこうじゃないか!」
「ガイ……」

ガイが中央に『カカシくんお誕生日おめでとう』と描かれたチョコプレートと、蝋燭の刺さったケーキをテーブルに置く。その横でアオバが「ロウソクを消すのは主役だけだろ」と冷静につっこむ。

「誕生おめでとうございます先輩の誕生日だっていうから、鬼のような任務急いで片づけてきましたよ」
「……テンゾウ」
「なんでボクだけちょっと嫌そうなんですか」
「そりゃあ大量クルミ料理広げられたら誰だって戸惑うでしょーよ」
「ちゃんとクルミ料理以外もありますよ!」

テンゾウさんがてきぱきと手料理をお皿に並べていく。

「こんな時間に大人数で押しかけてきて何の用……と言いたいところだけど、ナマエにきいた方が早いのかな?」
「うん。私がみんなを呼んだの。カカシの誕生日を一緒に祝おうと思って」

来てくれたのはアスマさん達だけじゃない。アオバやゲンマやアンコ、夕顔さん。カカシと親交がある人達が集まってくれた。みんな、カカシの誕生日パーティーをすると言ったら、快く参加を決めてくれたメンバーだ。本当はもっと誘いたかったけれど、部屋の広さを考えるとそれほど人数は呼べなかった。人数を気にせずに声をかけたらもっと集まっただろう。……まあ、中にはただお酒が飲みたい、騒ぎたいだけの人もいるだろうけど。

「カカシは、誕生日を祝ってくれる友人はもういないって言っていたけど、今もカカシには、こんなに祝ってくれる人達がいるよ」

今日集まってくれた人たちは、私からカカシへの誕生日プレゼントだ。

お父さんや同じ班の仲間たちに祝って貰ったことを懐かしそうに語るカカシの瞳は、寂しさが滲み出ていた。もう一度そんな風に祝われることを望んでいるように見えた。
あの時祝ってくれた人達は誰一人いないけれど、カカシには私や他の仲間たちがいるってことをわかって欲しかった。

「だから会ってないようなものだとか、祝ってくれる人がいないとか、そんな寂しいこと言わないでよ」

カカシは私から視線を移すと、アスマ、紅、ガイ、テンゾウさん、一人一人の顔を見渡して、最後にまた私に視線を戻した。

「……みんな、ありがとう」

頭を掻きながら照れたように笑うカカシを見て、その場にいた全員、満足気に笑った。

「さて、主役もその気になってくれたし、飲むわよー!」
「オーー!」

飲みたいだけ筆頭のアンコがグラスを掲げたのを皮切りに、カカシの誕生日パーティーは始まったのだった。

明け方まで続くかと思われたパーティーは、ゲスト陣が一人、また一人、と順に潰れていき、全員潰れたことにより終息した。

先刻までどんちゃん騒ぎしていたのが嘘のように部屋は静まりかえっている。
酔い潰れて床やソファに転がった面々を見て小さく笑った。そんな彼らに毛布やブランケットをかけて回り、電気を消してカカシのいる寝室へと向かった。

部屋に入ると、カカシは灯りのない部屋の窓際でぼんやり外を眺めていた。こちらに気づくと振り返って「おつかれ」と微笑んだ。

「やっと静かになったね」
「全員寝たの?」
「うん。もう爆睡」
「あいつら明日の任務大丈夫なのかね…」
「まあなんとかなるんじゃない?」

幸い私もカカシも非番だけど、確かみんな任務がどうとか言っていたような気がする。起こして家に帰すべき迷ったけど、気持ちよさそうに眠る彼らを見ていたら、もう少しだけそのままにしておこうと思った。明け方、どうして起こしてくれなかっただの恨み言を言われても断じて私のせいではないときっぱり言おう。

カカシの隣に立つと、パーティーでカカシがずっと被っていたとんがり帽子を被せられて「似合うね」とクスクスと笑う。これを似合うと言われても素直に喜んでいいか複雑な気持ちになるけど、カカシが楽しそうだからこのまま被っておくことにした。

カカシがまた外を見るので、私はその整った横顔を見つめていた。
冷たい秋風に乗せられてカカシの髪がふわりと靡いて、お酒が入ってほんのり赤みを帯びた頬が露わになる。
その横顔に「楽しかった?」と問うと「うん、とっても」と穏やかな声が返ってきた。カカシを喜ばせるはずが迷惑に思われていたらどうしようと思っていたので、カカシが楽しんでくれたことに安堵した。しかしその直後「でも」と言葉が続けられて、何か嫌な思いをさせてしまっただろうかと掌に汗が滲む。

「……ナマエが側にいなくて、寂しかった」
「あ……ごめん」

確かに今日の私は、さながら居酒屋店員のように、空いたお皿を片付けたり、酔っ払いどもにつまみを提供したりしていて、カカシの側にいてあげることはできなかった。カカシが楽しめるようにと裏方に回ったつもりだったけれど、どうやらカカシはそれが不満だったらしい。

「確かにプレゼントはいらないって言ったけど、ナマエが隣にいてくれたらってことだよ」

窓枠にかけていた右手にカカシの左手が重なる。
カカシの左右色の違う瞳に真っすぐ射抜かれて、目が離せなくなる。
カカシの顔が近づいて、軽く唇が重なった。

「何もいらないから、これからもそばにいて欲しい」
「当たり前でしょ。ずっとそばに居るよ」

掴まれた手を握り返して、今度は私からキスをした。





2017.09.15(カカシお誕生日おめでとう!)

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