ワンだふるでいず | ナノ



目を覚ますとカカシの顔が目の前にあって叫びそうになった。離れようとすると背中にがっちり腕が回されていて離れられない。そうだ、昨日カカシと抱き合って寝たんだった。詳しいことは覚えてないけど夢にカカシが出て来て幸せな夢をみていた気がする。もう少し夢の続きを見ていたいような気もするけどこうしてカカシが隣に居てくれるのならば、夢に縋る必要もない。

カカシはまだ眠っているらしい。こうしてカカシの寝顔を見るのは久しぶりだなと思ってしばらくその寝顔を見つめた。あまり意識したことはなかったけど、パーツの一つ一つが整っている、これが世に言うイケメンというやつなのだろうか。普段は覆われている口元に黒子があることを知っている人はどれくらいいるんだろう。自分がその数少ないうちの一人であることに小さな優越感を抱いた。
早く起きて欲しいと思う反面、もう少しこの顔を見ていたいような気もする。カカシの瞼が僅かに動いてゆっくりと持ち上がった。瞳にあたしの顔を映したカカシは優しく微笑んだ。

「おはよう、朔」

その柔らかい笑みに朝から脳が溶かされそうになる。

「おはよう、カカシ」
「オレの顔何か面白い物でもついてた?」
「起きてたんだ」
「そりゃああれだけ見つめられればね」
「かっこいいなーって見てただけだよ」
「朔がオレの顔褒めてくれるの初めてだね」
「そうだっけ?」
「うん、嬉しいよ」

そういえば付き合い長いせいかカカシの顔に関してはなんとも思ったことがなかった。顔が好きだから付き合ってるわけじゃないけど、嬉しそうなカカシを見たらたまには言った方がいいのかなと思った。

「そろそろ起きる?」
「今日は休みなんだしもう少しこうしてようよ」
「ひゃっ!もう、変なとこ触らないでよ!」
「かわいい」

クスクス笑うカカシを睨みつけてもちっとも怯まない。それどころかすごく愉しそう。

「朔、キスしたい」
「なんでいちいち訊くのよ」
「ダメ?」
「……いいよ」

カカシが妖艶な笑みを浮かべて顔を寄せた。触れるだけのキスをして離れて、またキスをした。何度か触れるだけのキスをして目をあけると、カカシが顔の両横に手をついていて押し倒されたような体勢になっていた。

「カカシ……」
「キス以上は何もしないから」
「うん……」

また唇を重ねて、今度は深いキスをした。キスはだいぶ慣れてきたけど、深いキスにはまだ慣れなくてどこで息をしたらいいかわからなくなる。
苦しくなって涙目になっていると窓を軽く叩く音が聞こえた。忍鳥の呼び出しかなと思い目を開けるとカカシの熱っぽい瞳にドキっとする。カカシの耳の良さなら忍鳥が来たこと絶対気づいてるはずなのにキスの嵐は一向にやむ気配はない。

「ん……カカシ、呼び出し……」
「そんなのいいよ」
「よくないってば!」

グーとカカシの胸板を押し返して睨みつけると、カカシは渋々退いてくれた。

「呼び出しイビキさんからだ。なんだろうね」
「あー、たぶんあれだな」
「あれ?」

カカシは心当たりがあるらしい。

「会いに行ってみる?」








イビキさんに連れられて来たのは、地下牢だった。ここにあたしに会いたいと言っている人がいるらしい。一緒に来たカカシは外で待つように言われた。なんでも向こうがカカシには会いたくないんだとか。牢に入れられてる友人なんていないし会いたい人って誰なんだろう。

「よう朔、久しぶり」

通された牢の向こう側にいたのは見たことのない青年だった。しかしその口調はやけに親しげだ。いつ会ったんだろうかと記憶を辿ってみても思い出せない。

「えーと……どちら様?」
「なんだ忘れたのか?キスして一緒に風呂まで入って抱き合って寝た仲なのに?」

青年がニヤリと笑う。あたしの後ろで様子を見ていたイビキさんが「朔お前……」と怪訝な表情を浮かべているので「違うんです!何かの間違いなんです!」と慌てて弁明した。

「ちょっとあんたいい加減なこと言わないでよ!」
「本当に思い出せない?この傷見ても?」

この傷と言って青年は左目に走る傷を指した。まじまじと見つめるとその両目の色は左右で異なっていて、グレーがかった髪をしている。あれ、この特徴どこかで……。

「案山子!?」
「正解」
「え、え、なんで!?」

あたしと似たような術をかけられて元には戻れないと言われていたのに、それよりもどうしてここにいるんだろう。

「実はあの後一週間くらい森をさ迷ってたらはたけカカシに捕まってさ、そのまま木ノ葉に連行されたんだよね。そしたらあいつが火影に元の姿に戻して欲しいって頼みはじめてさ」
「カカシが……」

そんなの一言も言ってなかった。カカシは案山子のこと気に入らないって言ってたのにどうして……。

「解術に少し手間取ったみたいだけど一昨日元に戻れたんだ」
「そうだったんだ……」
「まあもちろん無償で戻して貰ったわけじゃないし、俺の知っている情報を差し出すっていう条件つきだけどな。あの眼鏡の下でやっていくのはうんざりしてたところだったから丁度いいよ」
「でもよかった。案山子の無事がわかって安心したよ」
「……変な女だな。仮にも俺は敵だったんだぞ?」
「そうだけど、同じ術を受けた仲間意識みたいなもの感じて気になってたから……本当に良かった」

気がかりだったことも解決してこれで一件落着だ。
案山子の無事もわかったし、帰ろうと思っていると、案山子に引き留められた。

「なあ」
「何?」
「お前のこと気に入った。はたけカカシと別れて俺と付き合おうぜ」
「はあ!?何言っ……もが!」

反論しようとしたら後ろから伸びて来た手に口を覆われた。

「誰と別れて誰と付き合うって?」
「ふぁふぁし!!」

口を覆っていた手が離れる。外で待ってるはずのカカシがどうしてと訊きたかったけど、体を米俵のごとく担ぎ上げられた。床とカカシの背中が見えるだけでカカシの表情も案山子の姿も見えない。

「カカシ下ろして!」

じたばたと手足を動かして訴えかけても「はいはい後で下ろしてあげるよ」と軽くあしらわれるだけだった。

「人の女勝手に口説かないでもらえる?」
「そうカリカリすんなよ。余裕のない男は嫌われるぞ」
「ねえイビキ。こいつに一番キツイ拷問してやって」
「珍しく私情挟んでくるな、お前らしくもない。朔絡みだからか?」
「うるさいよ」

顔は見えないけどカカシの声はいつもより低くて鋭かった。それと対照的に案山子の声は愉快そうに弾んで聞こえる。この二人、人の姿で顔を合わせても仲悪いんだな。会話ができる分余計にそう感じる。

話が済んだのかカカシはあたしを抱えたまま出口へ向かう。落ちないようにカカシのベストにしがみついた。

「朔」

案山子の姿が見えなくなる直前、案山子に呼ばれた。

「そいつと別れたら俺んとこ来いよ。いつでも相手してやるから」
「一生別れないから他あたってよね!」

案山子に向かってあっかんべーをすると、彼は悪戯小僧のように無邪気に笑った。









「此処なら誰も来ないかな」

地下牢を出てから瞬身の術で移動しており、宙に浮いていた体がようやく地について安心する。辺りを見回すとそこは第七班が下忍の顔合わせをやったというテラスだった。

「下ろしてって言ったのに」
「だから下ろしたでしょ?」
「遅いよ」

ムッと唇尖らせてみるけどカカシは悪びれた様子もなく「ごめんごめん」と笑った。

「案山子のこと探してくれたんだってね。ありがとう」
「気にしてたみたいだから一応ね。でもあんな事言い出すなら連れて帰らなきゃよかったかな」
「あれは、あたしのことからかってるだけで本気じゃないよ」
「どうしてそう思うの?」

カカシが真剣な顔で訊いてくる。なんで、そんな顔するのかわからない。

「だって、あたしガサツだし……カカシみたいにモテるわけじゃないし」
「オレはいつ他の奴らが朔の可愛さに気づくかヒヤヒヤしてるよ」
「かわ……!?」
「手出して」

カカシに言われて両手で器を作るようにして手を差し出す。カカシはクスリと笑って右手をとり、薬指にするりと何かをはめた。

「これ……」
「お前はすぐにどこか行くから、首輪つけておかないとね」
「首輪じゃなくて指輪だよね?」

右の薬指にはめられたそれはシンプルなデザインの指輪だった。顔の高さでまじまじ見つめると太陽の光に反射してキラリと光った。

「いつか左手にちゃんとしたやつ送るから、どこへも行かないで」

――いつか、左手に。

その意味を理解して顔が赤くなる。カカシの未来に当然のように自分がいることが嬉しい。答えはもちろん決まっている。

「ありがとうカカシ……もうどこへも行かないよ」

あたしの未来にも当然、隣にはカカシがいる。

どちらともなくキスをして笑い合った。




◆首輪を貰いました



END

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