「あれ、朔さん?」
大好きな甘味処の季節限定パフェを食べに行くと、店の前で声をかけられた。聞き覚えのある声に振り返るとピンク色の髪を靡かせた女の子がにこやかに駆け寄ってくる。
「サクラちゃん!こんにちは」
「こんにちは。朔さんも季節限定パフェですか?」
「そうなの。サクラちゃんも?」
「はい!でも2種類あるからどっちにしようか迷ってて…」
「実はあたしも迷ってて…。サクラちゃんさえよければひとつずつ頼んでシェアしない?」
「いいんですか!?」
こうして、サクラちゃんと一緒にパフェを食べることになった。
「朔さんと会うの久しぶりですね」
「そうだっけ?」
注文したパフェがきてまず片方に手を伸ばすとサクラちゃんがそう言った。
サクラちゃんとは7班と共に任務行ったりしたからあまり久しぶりという感覚はないのだけど。
「そうですよ。たぶん前に会ったのってみんなでラーメン食べた時ですよ。カカシ先生は長期任務だって言ってましたけど、お忙しかったんですか?」
そうだった。共に一緒に任務へ行ったのはワンコの時のことであってこうして人の姿で会うのはかなり久しぶりだ。
「う、うん、まあね」
「朔さんいないからカカシ先生も寂しそうで……あ、でもサクちゃんっていうワンちゃんが来てから先生も楽しそうでした」
「ごふっ!へ、へーそうだったんだー」
当然自分ではない自分の名前がでてパフェに乗っていた白玉を喉に詰まらせそうになる。なんでもないふりを装ってみるけど声が震えた。怪しまれたかなと思ったがサクラちゃんは気にしていないようだ。
「サクちゃんの話カカシ先生に聞きました?」
「う、うん。ぼんやりと…」
「何度か一緒に任務にも行ったんですけど、カカシ先生サクちゃんのこと本当に可愛がってて、サクちゃんを見る目が優しいっていうか大事にしてるって感じで、任務でナルトがヘマしてサクちゃんが川に飛び込んで気を失った時のカカシ先生すごい焦ってて…」
「……」
「サクちゃんに避けられた時はわかりやすいくらい凹んでたし、サクちゃんが関わる時のカカシ先生は見ていて面白かったです。でもサクちゃんもカカシ先生の前だと甘えん坊さんだし気を許してる感じで、カカシ先生のそばが一番安心してるみたいでした…って朔さん顔真っ赤ですけど大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫…」
無心でパフェを食べていたが限界だった。堪らずに両手で顔を覆ったあたしにサクラちゃんが心配そうに声をかけてくれる。
カカシが、正体を知る前からサクに優しくしてくれていたのはあたしだって痛いくらいわかってる。サクに向ける眼差しも、サクに触れる手も優しくて、小さくて弱いあたしをカカシはいつも守ってくれていた。あたしはそれに当たり前のように甘えていた。自覚はあったけどそれを第三者、しかもワンコの時サクラちゃんとあった回数はそう多くないのにその少ないの中でサクラちゃんが気づくくらいバレバレな態度をとっていた自分が恥ずかしすぎていたたまれない。
火照った顔を落ち着かせたくて、近くにいた店員のおばちゃん冷たい水を頼むとすぐに持ってきてくれた。
「サクちゃんが元の飼い主さんの所に戻って、カカシ先生もっと落ち込むと思てたんですけど、カカシ先生が寂しくないのって朔さんが帰って来たおかげだと思うんですよ。朔さん愛されてますね」
愛されてる?あたしが、カカシに?
――おいで。朔
正体を知ってもそばにおいてくれた。
――お前が人間だからだよ
最後まであたしを人として見てくれた。
――好きだよ。
こんなあたしを好きだと言ってくれた。
自覚した途端、落ち着かせたはずの熱がまた湧き上がってくる。
「おばちゃんっ!かき氷ちょうだい!」
「ええ!朔さんかき氷の季節まだですよ?!」
あたしはこれまでカカシに沢山のものをもらって来たけど、あたしはカカシに何もしてあげられてない。カカシにもらった想いと同じだけ、いやそれ以上を、これから少しづつでもいいから返していけるだろうか。
その日の帰り道、偶然カカシに遭った。そのままカカシんちへ行くことになり並んで歩く。
『朔さん愛されてますね』
サクラちゃんが変なこと言うから妙に意識してしまい顔が見れない。
カカシの手と僅かに触れる。慌てて距離をとろうとすると手を絡めとられた。顔をあげて隣を見る。カカシは前を向いているが、その手はしっかりとあたしの手を握っている。嬉しさと恥ずかしさが混ざってなんとも言えない気持ちになる。それでもこの手を離したいとは思わなかった。もっと近くにいたい。カカシにもっと近づきたい。繋いだ手に力を込めるとそれ以上の力で握り返してくれる。もう少しこのままでいたい。わざと歩調をゆっくりにすると、カカシも同じように歩調を合わせてくれた。
◆小さくて大きい一歩を踏み出しました