上忍待機所にて。あたしとカカシと紅の視線の先には、くわえていた煙草を落とし間抜け面をしたアスマ。
「アスマー聞いてる?」
カカシが顔の前で手を振ると、ようやく反応が返ってきた。
「この犬が……朔!?」
アスマにも全部説明したのだが、まだ半信半疑のようで「どっきりか?どっきりなのか?」と何度も訊いてくる。まぁ、すぐに信じろという方が無理な話だ。
「じゃ紅、後よろしくね」
アスマのことは紅に任せ、あたしとカカシは待機所を後にした。
木ノ葉の夕暮れをカカシと歩く。カカシは愛読書に目をむけながらも、時折こっちを見てはニコっと笑いかけてくる。その笑顔にキューンとなって不自然なまでに視線をそらしてしまう。そのエンドレス。もうかれこれ4回目。
通りは商店が立ち並び人で賑わっている。自然と耳に入ってくる会話。
「今日結婚記念日なのよ」
おめでとうございます。
「最近旦那の帰りが遅いんだけど、浮気かしら?」
知るか。
「新しくできた飲み屋が…」
わー、行きたーい。
「3丁目の魚屋が旨いらしくて」
そうなんだー。
「ブチの奴ついに主人を引っかいちまったらしいぜ」
へー。
「まぁ所詮人間なんかにオレら猫の気持ちなんてわからないだろうからな」
うんうん君達猫の気持ちなんてあたし達にわかるはず……
「えっ!?」
「朔どうかした?」
「ううん、何でもない」
「そ?オレちょっと買い出ししてくるから此処で待ってて」
「わかった」
カカシが遠ざかったのを確認して、先程の猫達の会話に耳を傾ける。あぁ、やっぱり。間違いじゃないみたい。
あたし、動物の言葉がわかるようになってる。
猫だけじゃない。飼い主と散歩してる2匹の犬の会話だとか、籠に入った鳥の声だとか、野良達の会話だとか、今までニャーだとかワンだとかピーだとかしか聞きとれなかったのに、何でわかるようになってるの!?もしかして…
――ワンコ化のせい?
嫌な考えが頭を過ぎった瞬間、じわりと手に汗が溜まるのがわかった。汗を感じることができても突然のことに頭の中はショート寸前。とにかく綱手様に報告しなくちゃ。回らなくなった頭で導き出した答え。鈍った神経に必死に指令を出して足を動かす。野菜選びに夢中になっているカカシには何も言わず、一人綱手様の元へ向かった。
幸運なことに、途中書類を抱えたシズネさんに遭遇した為、難無く綱手様の元に辿り着くことができた。
「どうした朔?一人か?」
「綱手様、どうしよ、あたし…」
「朔?」
心配そうにあたしの顔を見る綱手様とシズネさん。そして、シズネさんに抱えられたトントンが「大丈夫?」と言ったのがわかった。その瞬間、心のどこかでは悪い夢であって欲しいと願っていたものが、現実であるんだと思い知らされた。この前までは「ブヒ」としか聞こえなかったのに。
「あたし……動物の言葉がわかるようになったみたいです」
「「!!」」
「あたしは……あたしが、元に戻れる日は、ちゃんと来るのでしょうか?」
綱手様は顔の前で手を組んで目をつむった。シズネさんは不安そうにそれを見守っていた。
長い沈黙の後に、綱手様がゆっくり顔を上げた。
「朔」
「はい」
「こちらでわかったことを全て話そう」
◆こちら朔です、応答願います。身体に異常があらわれ始めました