病院での監禁生活が始まって3日。監禁と言っても食事はちゃんと出るし、病室内での行動が制限されてるわけじゃない。ここでの生活はカカシんちに居た時と大して変わらないのだ。ただ時々「検査だから」と別室へと移動させられる。それ以外は外部との接触は一切なかった。
4日目を迎えた夕方。
「朔入るわよ?」
よく知った声に跳び起きる。そこにいたのは…
「紅!!」
この3日間面会は許されなかったらしく、漸く今日許可がおりたとのこと。すぐに来られなくてごめんね、と紅が謝るがそんなこと気にしない。 来てくれただけで嬉しいもん。
「ねー紅、あたしずっと気になってたんだけどさ、この前カカシんちに来た時、帰りに言ってたよね『聞きたいこと山ほどある』って」
「あぁ、あれね」
紅はベッドの横にあるイスに座ると顔をにんまりさせた。
「カカシと一緒に暮らしてたんでしょ?」
「まぁ、そうなるのかな」
「一つ屋根の下にいて何もないわけ?」
「ぶっ……!!!」
何言っちゃってるんだこの紅様は!!
「何もって、カカシはあたしが朔だって気付いてないし、今のあたしは……ワンコだし」
「ふーん」
「そりゃあお風呂なんかは一緒に入ったりしてたけど」
「何もなくないじゃない!」
「いや、違うんだって!紅が何想像してるかわからないけど、やましいことは何も…」
そう。何もない。何もないけど
「……優しかった」
一緒にいる間、カカシはすごく優しかった。犬好きの性格だからかもしれない。普段からあたし以外には優しかったのかもしれない。でも、一度あの優しさを知ってしまったから。一度あの優しさに触れてしまったから。
「もっと一緒にいたかった」
あの声で名前を呼ばれたり、あの笑顔で頭撫でられたり、あの腕に包まれたり
「カカシのところに戻りたい」
一番近くにいたかった。
「カカシのそばにいたい」
ワンコになって、離れてみてようやくわかった。あたし…
「カカシがすきだから」
カカシが大好きなんだ。ワンコになった姿を知られたくなかったのは、馬鹿にされるからじゃない。こんな姿を好きな人に見られるのが嫌だったんだ。
「――なら決まりだな」
紅じゃない第三者の声のした方へ顔を向けると、壁にもたれて綱手様が立っていた。
「綱手様!いつから」
「私と一緒に最初からいたわよ。廊下にだけどね」
き、気付かなかった。あたし忍としての腕落ちたかな。そんなことに悩んでる暇はないらしく、カツン、と綱手様の足音ではっと我に帰る。
「お前のこれからの処遇を伝えに来た所だ」
「綱手様!あたしは」
「カカシのところに戻れ」
「え……」
今のあたしはすごく間抜けな顔をしていることだろう。
「週に1回は私んとこ来ることになるけどな」
きょとん、とするあたしに綱手様がニヤリと笑う。
「せいぜいバレないように気をつけるんだな、サクちゃん」
「は、はい!」
◇「――というわけで、こいつの飼い主にまだ預かってて欲しいと言われてな」
「はあ」
「週1回は私のところに連れて来い。よろしく頼んだぞ、カカシ」
カカシのアパートまでわざわざ出向いた綱手様は、用件を伝えるだけ伝えあたしを押し付けて、すぐに帰ってしまった。
困惑気味のカカシを恐る恐る見上げると、独特の柔らかい目と視線が合う。しばらく見つめあった後、カカシの目が孤をえがく。すると体が高らかと持ち上げられ、カカシと同じ目線の高さに持ってこられる。
「おかえり、サク」
その直後、唇に伝わる温かい何か。それは一瞬のことで、何が起きたか理解できなかった。でも、今、カカシの、口布越しにカカシの唇が、触れたような……
え、ええぇぇぇぇぇぇぇえ!?
口をパクパクさせるあたしを抱え「今日の夕飯何がいい?」と暢気に話しかけてくるカカシ。なんであんたそん普通なの!?
前途多難なワンコ生活、この先もっと大変かもしれません。
◆奇妙な同居生活改め、前途多難な同居生活が始まりました
ただいま、カカシ。