「よお、紅」
「アスマ!」
極秘任務を請け負い火影邸を出た所で、調度アスマに出くわした。そのまま並んで歩を進める。
「これから任務か?」
「えぇ」
「そうか。そういやカカシの奴、今犬飼ってんだと」
「また忍犬?」
「いや、拾ったただの犬らしい。それが朔にそっくりなんだと」
「朔に……?」
まさか――!
「紅!?」
「ごめん、任務なの」
突然走り出したことに驚くアスマを残し木ノ葉通りへと向かった。人混みを抜け更に走る。目的地が見えてきた所で足を止めた。私の推測が間違っていなければ朔は必ず此処にいる。
着いた場所はそう――カカシのアパートだった。
◇『オサム!私を騙してたのね』
『ご、誤解だ!信じてくれ!ナギサ』
バチン!
『このろくでなし!』
(おおっ!)
カカシが留守の間家ですることがないので昼ドラを見るのが日課になりつつあった。昼ドラなんて、と退屈凌ぎで見始めたものの、男女の交錯する恋愛模様にいつの間にかくぎづけになっていた。
ピンポーン!
今良い所なのに誰よ!邪魔しないで!無視してテレビを見続ける。すると――
ドンドンドンドン!!
ノックというか、ドアを破壊する勢いで叩いてきた。ちょっ……何者!?
「朔いるんでしょ?開けなさい!」
こ、この声は、紅!?
「あなたが犬の姿なことは知ってるわ。此処を開けなさい!」
どうして紅が此処に!?そんなことより、とうしてあたしがワンコになっちゃったことがバレてるの!?
「10秒以内に開けないと起爆札で吹っ飛ばすわよ」
何恐ろしいこと言ってんのおお!?でもきっと紅は本気だ。外ではもうカウントダウンが始まってる。ドア開けなきゃ。でもドアまで手が届かない。んー……あっ!印は組めなくてもチャクラ吸着ならできるかも!
心を落ち着かせ、恐る恐るドアに足をくっつけてみる。すると、落ちることなく床と垂直に立つことができた。どうやらこの姿でもチャクラコントロールはできるらしい。ドアのぶまで昇って、ロックを外す。音でわかったのか紅がゆっくりドアを開けた。
「……朔?」
「ど、どうも」
あたしがワンコの姿だとわかっていても、どうやら実際に見るとかなり信じがたい光景らしい。しばし沈黙が続いた後、紅が部屋に押し入って来て両頬を思いきり抓られた。
「この馬鹿っ!心配させるんじゃいわよ」
「ごみぇんなひゃい。でも紅、どうしてあたしがワンコだってわかったの?」
あたしの頬から手を離す紅は、まるで自分ん家かのようにどっかりソファーに座った。
「綱手様に頼まれたのよ。犬の姿になった朔を探して欲しいってね」
「そうだったんだ」
綱手様心配してくれてたんだ…。思えば里に戻って来たあの日以来、行方不明状態だもんなぁ。
「ほら、行くわよ」
「行くってどこに?」
「綱手様のところに決まってるでしょう」
「あ……」
「どうしたの?」
その場を動こうとしないあたしに、紅が眉間に皺を寄せる。
「綱手様のところに行ったらあたし……どうなるのかな」
「元の姿に戻れるよう全力を注いで下さるわよ」
「明日じゃダメかな?綱手様のところへ行くの」「どうして?」
「……もうちょっとだけ、ここにいたい」
カカシの傍にいたい。
「……わかった。明日また迎えに来るから」
「うん。ごめんね我が儘言って」
「聞きたいことは山ほどあるんだから、明日は覚悟しときなさいよ」
そう言って紅は部屋をあとにした。
いつかカカシのもとを離れなきゃいけない日が来ると思ってたけど、それが明日だなんて急だなぁ。早く帰ってきてよ、カカシ。
◇朔を探し始めて何日が経っただろうか。火影様のもとに何の連絡もなければ俺のところにも来やしない。食い意地のはった朔のことだ。もしや路頭に迷って餓死したのかもしれない。いや、あいつの場合意地でも生き延びそうだ。手当たり次第聞いて回るが有力な情報は得られずにいた。
前方にどこかで見た餓鬼が3人。あれはカカシさんの担当下忍だ。あまり期待はしないが訊いてみっか。下忍達を呼び止め白い仔犬は見なかったか、と訊いてみた。
「知ってるってばよ」
「本当か!どこで見た?」
「キバんちの赤丸だってばよ」
……九尾の餓鬼に訊いた俺が間違いだった。他をあたるか。
「白い仔犬って……カカシ先生の飼ってるワンちゃんも白かったわよね」
「忍犬のことか?」
「いや、最近拾ったと言っていた」
「拾った?」
――それだ!
「ありがとな。助かった」
下忍達に礼を言ってカカシさんを探す。
昨日カカシさんは「明日は待機か。早く帰れるから相手でもしてあげるかな」と言っていた。「女ですか?」と冗談混じりに訊くと「女、かな。たぶん」と答えるだけだった。
もしその女が朔だとしたら?
「白い仔犬見ませんでしたか?」
「見てなーいよ」あれが嘘だとしたら?
◇夕方。待機所から戻るとサクはオレのベッドを占領して爆睡していた。そこにコンコン、と軽いノック音。ドアを開けるとそこにいたのは…
「ゲンマ?何かあったの?」
息をきらしているゲンマ。緊急の召集でもかかったのだろうか。
「……カカシさん、」
「ん?」
「白い仔犬をご存知ですか?」
「この前もそんなこと言ってたよね?」
「……」
ゲンマは何も言わない。上忍であるオレに言えないことだとすると任務絡みか。火影様直々の頼み事か。
「白い仔犬ね……あるよ、心当たり」
「!」
「ちょっと待ってて」
一度ドアを閉めて部屋に戻り、寝ているサクを見下ろす。サクを見るとどうしても朔の顔がチラつく。何なんだよお前は。サクを抱き上げゲンマの待つ玄関へと向かった。
「待たせたな」
「――!」
腕に抱えているサクを見るなりゲンマの表情が僅かに驚きに変わる。ゲンマが探してたのはやっぱりサクだったのか。
「こいつの飼い主から依頼でもあった?」
「ええ、まぁ……」
「そう。淋しそうにしてたから、早く帰してあげて」
ゲンマの腕の中で眠るサクを見る。これでサクともお別れ。飼い主のところに戻れるんだからよかったじゃないか。どこか不安そうなサクを見ることもなくなる。オレもサクも元の生活に戻るだけ。
じゃあな、サク。
オレとサクを分かつ扉が大きな音を立てて閉まった。
◆お別れの時がやってきました