ワンだふるでいず | ナノ



はぁー。朔が任務に出てってからどれくらいが経っただろうか。アイツがいないってだけでオレの周りは静かで、なんだか胸にぽっかり穴が空いたような気分だ。任務は既に終わっているはずなのに、アイツがオレの前に姿を現さないのか不思議でたまらない。無断で大福を食べたことをまだ怒ってるのか……あいつなら有り得そう。けどあんなやり取りは過去に何度もやっている。あんなのオレと朔にとっちゃ挨拶のようなもの
オレと顔を合わせたくない理由は大福が原因なのか。それとも別の理由があるのかーー




「……カシ…カカシ!」
「あれ、アスマいたの?」
「『いたの?』じゃねぇよ。やる気のねぇ顔してどうした……っていつもか」
「悪かったねやる気のナイ顔で。ちょっと本に集中しちゃって」
「本、逆さだぞ」


……ホントだ。


「朔のことでも考えてたんでしょ」


煙草を吹かすアスマの横に座った紅が何か言いたそうにこっちを見てくる。何よその目は。


「その様子だとカカシも見てないみたいね」
「ん?何を?」
「朔よ」
「紅も見てないの?」
「それがあの日以来、里であの子を見た人がいないのよ」


紅やアスマ、他の者まで朔のことを見てないなんて予想外だった。オレのところに来てなくても紅達のところには来ていると思ってたのに。


「門番に記録を見せて貰ったらちゃんと帰ってきた記録があったわ」
「パックンに朔を探させたらオレんちに来てたみたい。すれ違いだったけど」
「里に戻って来てるのは間違いないみたいね」
「ゲンマなら見たぞ。血相変えて何か必死に探してたみてぇだけどな」
「ああ、犬探してるんだって」
「犬?」


ゲンマの話なんてどーでもいいんだよ。今問題なのは朔でしょーよ。


「その門番達だけど、そいつらは朔を見てるの?」


そう問うと、紅は黙って首を横に振った。


「それが記録に記されていた時間は昼寝してて覚えていないそうよ」
「昼寝ねぇ……」


あの二人なら有り得そうだな、と頭の片隅で考えていると、紅が突然席を立った。


「これから任務で呼ばれてるのよ。朔のこと私ももうちょっとあたってみるから」


それじゃあ、と部屋を出て行った。


「……心配か?」
「紅が?」
「違ぇよ、朔だよ」
「……別に。それに今はアイツがいるし」
「あいつ?」










まさか朔がカカシのところに顔を出さないなんて。それどころか里の誰も朔を見てないってどういうことなのかしら。
そんなことをぼんやり考えていると火影様のいる執務室に辿り着いた。


「――どういうことだっ!」


ダンッ!!と室内から何かが破壊されたような音が廊下まで聞こえてきた。綱手様ったら机か何か割ったのかしら。ドアのぶに手を伸ばそうとした手は次に耳に入ってきた言葉によってピタリと止まる。


「朔が見つからないだと!?」
(朔……!?)


“朔”という言葉に反応し咄嗟に気配を消した。


「はい。ゲンマが探しておりますがまだ……」


「あれから何日経ったと思ってるんだいまったく。今のあの子はただの仔犬なんだ、下手すれば野垂れ死ぬんでるかもしれないんだぞ」


ちょっと……

「捜索隊を編成しますか?」
「事を大きくしたくはない。だがこのままではやむを得んな」


ちょっと待って!朔が仔犬ってどういうこと!?


「失礼します」


執務室に入るとシズネがびっくりしたように私を見た。さっきの話が聞かれたんじゃないか心配しているみたい。


「急に呼び出して悪かったね。実はお前には」
「今の朔の話、本当なんですか?」


聞いてたのかい。綱手様が溜め息混じりに小さく吐いた。


「あぁ。お前を呼び出したのは朔の捜索にあたってもらおうと思ってね」


差し出された1枚の写真。そこには1匹の白い仔犬が写っていた。これが朔?


「10日前、朔は任務帰って来た。その姿になってな。変化の術らしいんだが解けないらしい。おかしなことにチャクラ量は正常時と同じくらい残っていた。しばらくはゲンマに面倒を見させることになったんだが…」
「いなくなったんですか?」
「ああ。朔は抜けてるところはあるが優秀な忍だ。だがその姿ではどうにもできまい」


ようやく繋がった。朔が里に帰って来てるのに姿を現さない理由が。門番の記録は綱手様が偽装したらしい。


「カカシには伝えなくていいんですか?」
「あいつがこの事実を知って冷静でいられると思うか?」


朔のことになるとあのカカシのポーカーヘェイスが崩れるのは百も承知だ。さっき待機所で朔の話を振った時だって、平気なふりしてたけど明らかに動揺していた。普段のカカシだったら絶対に有り得ない。カカシにとって朔は特別な存在だから。そのことに本人は気付いてるんだか気付いてないんだか。


「くれぐれも極秘で頼む」
「わかりました」





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