キスをした。いや、された。これは不可抗力だ、なんて言って自分を少しでも守ろうかと思ったが、なんだかこの男の前ではそんな言い分も無に帰してしまうと直感的に思ったので、やめた。相変わらず表情を変える様子のないダイゴとは反対に、さっきから忙しなく揺れる感情を顔には出ないよう必死に抑える自分。余裕綽々のこの男の下手に出たくないという、小さいながらも存在する私のプライドの犯行である。

じっと見つめてくるダイゴに負けじと、こちらもじっと見つめる。耐えられるだろうか、このダイゴより長く。そもそもダイゴは私を見つめているのだろうか。目だけが私を捕らえ、本当は私のしらない世界を見つめているんじゃないだろうか。ああ、苦しいな。いや、苦しいのは最初からだったな。


「ダイゴは、好きでもない人とキスができる部類の人だったんだね」
「………」
「なんか、言い返してよ」
「……そうかもしれない」
「…そうですか」


ほらね、苦しい。こんな男に掻き乱されている自分が途端に惨めに思えて、滑稽にも思えて、消えてなくなりたいなんて現実逃避を頭によぎらせる。この男の支配から解かれたいと思おうとすればするほどそれを拒否する自分が浮き上がってきて、いかに自分がこの男に縛られているかを知る。


「なんでキスしたの」
「君が綺麗だったから」
「綺麗…?」
「君という存在を確かめたくなった」
「…わかんないよ」


わからない。


ダイゴが何を考えているのか、思考がまったく読めない。今、ダイゴの心は私に向いているだろうか。私を見て、話をしてくれているのだろうか。読めない。頭のいい人はときどき何を考えているかわからなくなる、ダイゴもその種のなにかかと思うけれど、それだけではない。これはなんとなくわかる。


「ダイゴ、何かあったの?」
「……いや、別に」
「嘘だ」
「………」


一瞬、ダイゴの目に悲哀が見えたのは気のせいではない。でも、何があったのかなんて彼が言わない限り私に理解することは難しい。私は、ダイゴの中で悩みを打ち明けるにも値しないちっぽけな存在なのだろうか、なんて卑屈に考え始める脳を抑え込んでもう一度ダイゴの名を呼んだ。


「すまない」


返ってきたのは謝罪の言葉と、何かにすがりつくように回された腕だけだった。気づいてしまった、私を抱きしめるダイゴの腕が、僅かに震えていたことを。数分その状態が続き、それから離れたかと思えば「じゃあ、またね」という言葉と共にどこかへ去ってしまった。ダイゴの考えていることは、何も見抜くことができなかったが、私はダイゴのためになることを何かしてあげられただろうか。

そんなの、ダイゴにしかわからない。




行方知らずの思惑は救いを待っている




私が会った時には既にダイゴが挑戦者に負けチャンピオンではなかったことを知ったのはその数時間後で、ダイゴがホウエンを発ったという噂を耳にするのはさらにその数時間後だった。


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pkmn/ダイゴ

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