嗚呼俺の初恋
「あ、そういえばさー」
俺達9組の野球部(あと浜田)は、教室で弁当を食っている。
口にいっぱい物をつめた田島が、何かを思い出したように話し始める。
「何だよ田島」
浜田が話の続きを聞いた。俺はペットボトルのスポーツドリンクを飲む。
「泉の初恋の相手はどうなったんだよ」
「ブッ!!!!」
「うわ、汚ねぇ!!!」
「だ、大丈夫、泉…くん」
「田島ァ………」
何が初恋の相手だ!!ケンカ売ってんのかよ!!
「えー!!だってお前苗字のこと好きなんだろー!!?」
「ば…っ!!声でけぇんだよ!!」
田島をブッ叩く。痛そうな顔して三橋にくっついてるけど、絶対痛くねぇんだろうな。
この石頭が…
苗字は静かでまじめ。だけど、友達と楽しそうに笑ったり、美味しそうに甘いものを食ったりしているのを見たら、もう撃沈。
以前田島にポロッと話しちゃってバレた俺の儚い恋心。とりあえず、田島死ね。
「別に何にも進展なし。この間ちょろっとはなしたけど、完全にあれは脈無しだな。」
「何だよ失恋かよ」
「でもまだ告ってないんだろ?」
「あぁ。でも向こうが俺に興味ねぇのに告ってもな。俺が玉砕するだけっつか」
「おーい、泉ー」
「あ、あべくっ…ん!」
「何でお前が反応すんだよ三橋。泉、ちょっと来てくんね?」
「何だよ、男からの告白は受け取れねぇぞ?」
「ちげーよ馬鹿。いいからこい」
眉間に皺を寄せて阿部は不機嫌そうに言う。
阿部が連れてきたのは7組の教室。
俺は阿部と二人で教室の扉の所にいる。
「おい、あれ見ろ。あとこっからあいつらの話し声聞こえっか?」
「あぁ…。」
阿部が指差したのは、教室のある一点。
そこには、水谷と花井と篠岡と…
「苗字!!?」
「馬鹿、声がでけえよ」
「何でここに苗字がいんだよ」
「そのうちわかる。じゃ、俺行くから。お前そこで話聞いてろ」
「お、おい阿部!!」
俺を残して教室に入っていった阿部。この状況で俺にどうしろっていうんだよ!!
「よぉ阿部、うまくいったか?」
「あぁ」
『どこ行ってたの隆也』
教室に入った阿部に、一番最初に気付いたのは水谷だった。
うまくいったかって事は、俺にここであいつらの話を聞かすのが目的なのか?
つか、隆也って…。
俺も苗字に呼ばれたい。
「ちょっとな。それより、お前泉とはまだ何にもねぇの?」
俺!!?
『ない…。』
「そんなに焦らなくても大丈夫だよ名前ちゃん」
『ありがと、千代ちゃん…。』
頭を抱えて机に伏せる苗字。苗字の向かいに座っている篠岡が俺の方を見た。
「(き・こ・え・る?)」
口パクでそう言った篠岡に肯定の返事をする。いまだ顔を上げない苗字に篠岡が声をかける。
「名前ちゃん。泉君のどこが好きなの?」
『どこだろう…。
はじめてみたのはグラウンドだったよ。部活してるのが見えて…。
クラスでも友達と話して笑ってるの見たら、恰好いいなって…。それで…』
「好きになっちゃったんだ」
『うん』
「泉聞いてたか?」
『え?』
阿部に呼ばれた。俺はドアの影から顔を出して、苗字を見る。
あれ、顔真っ赤だ。
あぁ、俺もか。
『た、隆也…一体これは』
「お前ら見てっとイライラすんだよ。お互い好き合ってんのにうじうじうじうじ。いい加減くっつけ。」
『はぁ!!?』
「そーだよ苗字。俺たち恋のキューピッド。」
『水谷…』
「悪いな、俺は止めたんだけど…」
『花井は悪くないから許す』
「あのさ、苗字!!」
言い合いをしている水谷達の声を遮って苗字を呼ぶ。大きい目を更に大きくして苗字は俺を見る。
「お、俺。苗字が好きだ」
そう言った俺に、顔を真っ赤にさせて。
でもしっかりと俺の目を見て苗字はこう言った。
『私も好きです。』
嗚呼俺の初恋(あのさ、お前らさ。ここ、教室)
((あ。))
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