お引越しB

終業式が終わり、いつもよりも早く下校する俺達。柳生と名字と俺の三人で校門まで行くと、悲しそうに立っている赤也がいた。

赤也は俺達に気付くと走ってコッチまできて喋り始めた。




「先輩、絶対夏休み部活サボっちゃ駄目ですよ!!?」

『サボんないよ。サボったら幸村に何されるかわかんないし。』

「そういう意味で切原君は言ってないと思いますが…」


淡々と答える名字に柳生が突っ込みをいれる。
転校というある意味での一大イベントに、名字は全く動じていない。
むしろ俺達と離れられて満足しているような表情でさえある。


『どうしたのジャッカル。さっきから変な頭してるけど。あ、いつもか。』

「おま、変な頭って…。つか、寂しくないのかよ、転校。」

『うん。むしろあの大魔王と離れられて清々する。超嬉しい。』



そう言って満面の笑みを浮かべる名字と裏腹に、俺達は顔を曇らせた。
赤也は今にも泣きそうな顔してるし、柳生も辛そうな顔してる。

俺だって、ヤだよ。
名字がテニス部嫌いって言ってるの知ってたけど、やっぱりコイツにマネやって欲しいって思ってたのは事実。

強引だけど名字がマネやる事になってマジで嬉しかった。

短い時間だけど少し位は俺達と名字との距離が縮まったんじゃないかって俺は思ってた。

女嫌いの仁王やあの真田や幸村までもを認めさせた名字を俺は尊敬してたし、いいダチだと思ってたのに。



「んな事言うなよ…」

『ジャッカル?』

「んな悲しい事言うなよ!!」

『ちょ、ジャッカル!!』





あいつをダチだと思ってたのも、少し距離が縮まったと思ってたのも、全部全部俺達だけだったのかよ。

男として情けない事はわかっているが、俺は名字達を置いて走って家に帰った。


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