第一印象は喜怒哀楽の激しい奴だった。いつだって周りに人がいてとても楽しそうで。俺とは違うタイプの人間だな、なんて思っていた。楽しそうに笑う名前を俺が遠くから眺める、そんな一方的な関係だった。
「あれ、田沼くんだ。何してるの?」
あの日、放課後の教室で出会わなければ。



***



意味が分からんといった顔で透ちゃんはアイスティーをすすった。いや、ね、私からすれば君の頭の中の方が意味分からんのだよ透ちゃん。目の前でずずず、と音を立ててアイスティーを飲み干していく透ちゃんを眺めながら、私は首を傾げた。うん、もっと上品に飲もうね。なんていう私の願いはどうやら聞き取って貰えずに終わったようだ。それはそれはおっとこまえにアイスティーを飲み干して、コップをだん、とテーブルに叩きつけた透ちゃんは据わった目で私を見上げた。何だろう、怖い。


「何で、そこで言わないの」

「うん?」

「私も好きって、何でそこで言わないの馬鹿!」

「え、いや、だって」

「言い訳しない!」


ぴしゃりと透ちゃんに怒られて、思わず縮こまる。うん、ごめんね、別に私悪くないけど。へらへらと笑っていると透ちゃんに睨まれた。わあ、怖い。


「田沼くんのこと、好きなんでしょう?」

「うん」

「じゃあ、何で」


言わないの、両想いのくせに。透ちゃんの良く通る声が尻すぼみに消えていった。あぁ、漸くこの状況に合点がいった。そうだ、透ちゃんは片想い中なのだ。私から見ればそれこそ両想いだと思うけど。


「言えないよ」

「………」

「傷付くのが怖くて逃げた私に、今更そんな資格ない」

「それは名前が決めることじゃない」

「うん、でも言うつもりないよ」

「………」

「いつか」

「え」

「いつか、ちゃんとリベンジする」


だから、それまでにしっかり覚悟を決めるから。私がにっこり笑うと私の言葉を理解した透ちゃんも呆れたような笑みを返してくれた。私がいつか、田沼くんに思いを告げたとして、その時まで田沼くんが私を好きでいてくれる保証なんてないけれど。私が田沼くんを好きでいる保証なんてないけれど。やり直すには失敗を取り返すには大掛かりな下準備が必要なのだ。





レイニー・ブルー
(舞台の幕はかくして下ろされる)





「透ちゃんもちゃんと告白しなよ」

「…うん」


夏目くんは面白い人だったよ。なんて名前を出せば透ちゃんが爆発した。可愛いなぁ、耳まで真っ赤なんて。






夏目と多軌は好き同士でも親友でもいいなぁ、って。




 



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