唇を重ねる行為を口吸いと呼んだ人はすごいと思う。触れ合うだけなのに、頭蓋の内に靄がかかるし、体は毒に侵されたみたいに熱くなるし、胸には甘い痛みが走るのだ。本当に自分を吸われてしまうんじゃなかろうかと、錯覚しそうになることだって少なくない。こんなに的を射た名前は無いだろう。ようやく解放された唇から、はぁはぁと荒く息を吐けば、笹山はまるで他人事のようににやりと笑った。


「色気がないなぁ、なまえは」


あぁ、そうですよ。くの一志望のくせして色の授業はいつだって追試すれすれよ、悪いか。精一杯の憎しみを込めて睨み付ければ、相変わらず腹立たしい、人を馬鹿にした笑顔をされた。今度の合同実習でわざと攻撃しかけてやる。そのままぎりぎりぎり、と唇を噛みしめながら、睨み続けていると、ばちんと眉間を弾かれた。見た目はひ弱なくせに、なんて威力だ。確実に赤くなってるだろう額を押さえながら、悔し紛れにもう一度睨み付けてやった。


「女のくせに目付き悪いなぁ」

「笹山が目の前から消えてくれたら、今よりずーっと目付き良くなるわよ」

「じゃあしばらくは目付き悪いままだ」

「…放っておいてよ」

「嫌だね」


ああもう、なんて男だ。まだ人当たりの良い同室の夢前が恋しい。少なくともわたしが受ける肉体的な被害においてはこの男よりもマシだ。本人に言えば確実に新しいからくりの実験台にされるから絶対に言わないが。末恐ろしいあの黒い微笑みを思い浮かべると、ぞくりと悪寒がした。


「なまえは本っ当に、鈍いなぁ。庄ちゃんの言った通りだ」

「…黒木がどうかしたの」

「ん、別に?」


素知らぬ顔してわたしの腰を引き寄せて笹山は笑う。ちゅう、と吸われた首筋がいやに熱く感じた。





絆される
(もしかして、流されて、る?)





「どこ吸ってんのよ!」

「…首だけど?」

「っ最悪!あぁっ、もう帰る!」

「なまえ」

「なに?!」

「そのままで行くと、痕、丸見えだよ」

「!!」


こんな男に絆されてなどやるものか。かつてないほど完璧に決まった右の拳を震わせながら、固く、そして強く誓った。





 
小学生男子かこいつはなんて思いながら書き上げてみる。兵太夫はこんな感じだと良いなぁって思ったり、で付き合った途端デッレデレだと美味しい。こんなものですがおぶじぇちゃんに捧ぐ!
 



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